雨がしとしとと雫を地に与える中。
私は野良猫を傘に招き入れていた。
悪夢はスタートライン7
「にゃぁ〜ぅ」
「はぃはぃ、風邪引かないようにね〜」
少し濡れた体なのにも関わらず、愛らしいまだ幼い猫は私の足元にスリスリしてきた。
……巨大な低気圧の所為で少し荒れ模様の天気の中、今日は約束のカラオケデーです。
「……来れるのかな、渚と安城君」
心配するのも無理はない。
何故なら二人は電車が止まると一切この付近に来ることが出来なくなるのだ。
(ありがたい事に、私は学校にもジャスポにも自転車で行ける距離なのです)
「でも、問題は――ヤツだっ!」
「にゃっ?」
そう、もし以前の"リーゼル青年、コンビニに現る!"による憶測が当たってしまえば
リーゼル青年は明らかにこの付近住んでいる可能性が十分あるのだ!
(もし、別の都合で単純に居合わせただけならいいけれど…その可能性って低くない!?)
貴方との出会いを〜奇跡と思いたい〜♪
「あ、メール」
最近はめっきり聞かなくなった古い着うたが、鞄の中からバイブレーションと連動しながら響いてきた。
その所為で子猫は一瞬驚いてたじろいだものの、
自分に危険が及ばない事が分かるとまた同じ行動を繰り返し始めた。
「…なんじゃこりゃぁ!!!」
――…私の驚愕の声を聞く前までだったが。
子猫が驚き、激しく雨降りしきる中去って行ってしまった事など気に入らず、
私は送られてきたメールに釘付けになった。
『From 渚
ごめん、〜。電車がものスッゴク遅れててさ〜、かなり着くまで掛かっちゃうかも♪
安城君とは途中で合流できるから、それは心配しないでね〜。
それでね、その事トミーにメールしたら「普通に行ける」って返ってきたからさ。
先に二人で入って歌っててね〜ヨロリンコ〜☆』
悪 夢 到 来 。
漢字四文字で表せるこの気持ちはなんだろー。泣きたいなー私。
だって彼と殆ど交友関係すら作ろうとしてない私に一緒に先に歌ってろと!?
渚、アンタ(と安城君)がいるから来たのっ!生き地獄じゃないか!!
「…一時まであと五分かぁ……」
悪夢(もはや単位が人ではない)が現れる時間まであと僅かである事に、私は盛大にため息をついた。
唯一の慰めであった子猫も去り、私の心をこの世に留めておける力は限りなく弱くなっています。
「あぁ…どうしよう……」
「ミナミさん、大丈夫?」
「あ。はぃ、大丈夫で…すうぅぅぅッ!?」
後方からした声に素直な反応をして振り返れば――普段より数段かっこいいリーゼル青年がいました。
いや、足音無かったよねお兄さん。相手の寿命考えてせめて気配だけは出してきてよっ!!
「リ、リーゼル君!!何時からいたんですかっ!?」
「え、今来たばっかりだよ?…ごめん、脅かしちゃったかな」
悩殺キラキラ(多分、腹黒族の必殺技の一つ)を喰らって、心が飛びそうになったが――踏みとどまる。
あ、危ない!鋼の様な不動の心を持たねば…直ぐ病院送りにされちまう!(勿論精神科)
「…渚からのメール見ました?」
「うん、見たよ。あ、ミナミさんのメルアドも教えてくれるかな?」
・・・・・・
えぇぇぇぇぇぇぇっ!?メルアド!メルアドか!?
私の心境など気にせず、青年はジーパンのポケットから携帯電話を取り出して操作を始める。
あ、Docomoだー♪と心は初っ端から現実逃避に走り出すので、何とかそれを食い止めた。
「…いいかな?」
「え、あ、うん」
ノリと勢いと悩殺キラリンコ(腹黒族の…※以下略)の所為で思わずうんと言ってしまったよ!
仕方なく、雨の中メルアド交換しました。
「ナギサが、ミナミさんがカード持ってるからって言ってたけど、ある?」
「はい、ありますよ…じゃあ、行きましょうか」
言いたくないけど、しかたなく自分から事を進めちまったよ私!
そう言うと、青年は私を気にしながらゆっくりジャスポの入り口へ進み始め、私もそれを追った。
――…あぁ、我に救いをください。
と、微量のモラルが残っていそうな神様に願いながら。
何か、妙にさんのテンションが上がり気味でした。
途中で出てきた着うたはスピッツの「君と出会った〜…」を入れるとぴったりはまります。
短いし、名前変更が一箇所しかないと言う誤算…次をお待ちください。
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