コンコンッと、何かが物を叩く音がしては目が覚めた。 手にしている少し高価な銀の腕時計を見ると――大よそ見積もっても、深夜の十二時だ。 こんな時間にフクロウ(の可能性は限りなく低いが)だろうかと目を擦って視点を整える。 ……月明かりでクッキリと浮かび上がる箒に乗った人物が、 ひたすら加減を調整しながら窓を叩き続けていた。 まさか…と思いながらも、今日の飛行訓練で痛めた脚を動かして 清潔に保たれている保健室のベッドからスルリと抜け出し、窓に近づいた。 窓に手を掛けて明けると、ヒヤッとした空気が保健室に流れ込んで来たが、 はそんな事よりも予想通りの人物がそこにいて、相手の名前を溜め息交じりで呼んだ。 「…真夜中のお散歩にしては、移動手段が派手じゃない?サック」 「そ〜突っ込まれるとおもったけどさぁ……これにはワケアリでしてw」 さり気無くチャット記号を発言の中に織り込んで、お茶目さを出すだが…ぶっちゃけ変だ。 それをの視線から感じ取ったは、素早く"お茶目さオーラ"を消滅させ、 こんな日付変更間近の時間帯に一風変わった手段で現れたのかを説明し始めた。 の話によれば、の体が心配で保健室に付いて行ったはいいけれども 実際の所、初めての飛行訓練は丸々ぼっくれてしまい……一回も箒に乗らずに終わったのだ。 それを悔やんだは、夕食後に宿題を片付け一人で箒の飛行練習をしていたらしい。 「…んで、思ってた以上に楽しくってさぁ!――乗ったまま此処に来ちゃってみた〜」 「……楽しかったとしても、一体何時間やってたのかな?」 のニッコリ笑顔の内部に黒さを確認したは、急に顔が引きつり、話題を変更した。 「いや、本当はクリちゃんと夜の散歩に行こうと思ってきたんだよっ!」 「…その箒で?」 「いんや――もう一本ある」 ずぃ、と何処から取り出したか分からない学校の箒をの前に突き出す。 それにはさすがに冷静なも驚いたが……此処は長年の付き合い。素敵スマイルで箒を受け取る。 窓の段差を超え、そこでようやく箒に跨るとすぃーっと二人は夜空に飛び立った。 「クリちゃんなら、今日の事もあるから絶対箒乗りは上手だと思ってたんだ!」 「…自覚は無いんだけどなぁ〜でも、サックだって上手じゃない?」 確かに、方向転換や加・減速共にも"上手"の評価に入る事は明白だった。 ただでさえ乗り手の言う事を聞かない学校の箒も、今は安定して宙に静止していた。 「そうかぁ〜!ありがとクリちゃ――…ん?」 深夜のホグワーツをフワリフワリと浮いていた最中、はある事に気づいた。 急に眼差しが真剣になったに、は無言で彼が見詰める先を見詰める。 校舎の一角で、複数の人影が廊下を移動していた――それも高速で。 …身長から言って、明らかに生徒なのだが生徒が深夜に出歩くのは(自分達を除いて)おかしい。 訳ありなのだろうかと、じっと見詰めているとが提案した。 「…もう少し近づいてみようか。意外と此処ってバレにくいしね」 言われてみれば、此処はホグワーツ城内を見るのには大変適している場所だった。 特に緊張する規則違反の夜歩きだ……外の風景を見る余裕など無いだろう。 コクリとは頷き、二人とも慎重に校舎への距離を縮め、内部からも見えない位置を保った。 ……近づいてようやく分かった。廊下を歩いていたのはハリー達だった。 「…ロンとハリーは冒険好きだから分かるけど、何でハーマイオニーとネビルが一緒にいるんだ?」 「サックはハリー達から何にも聞いてないの?夕食の時とか」 夜の過ごし方については、大体が夕食時に決定する。何かしらのヒントが無いかとは質問した。 「実は夕食前にも宿題やる為に図書館に篭ってて、丁度ハリー達とは入れ違いになっちゃってさ」 「…でも、誰かと会う約束でもしてるのかも――あ」 「妖精学の教室の前に生徒がいるぞ〜っ!!」 癖のあるポルターガイストのピープズの声が、ワァンワァン廊下に響いて、外にいた二人の耳にも届いた。 ケケケケッと、マリオのテ○サの様な笑い声を上げて再び走り出したハリー達を追うピープズ。 その意地汚いピープズを見ていたは、何故か急に静かな声でに訊いた。 「……クリちゃん」 「ん?」 「――…殺っていい?」 「ふふっ、地獄を見せてあげなよ…」 なんとも殺意が大量に含まれている会話をした後、はローブの中から愛用の杖を取り出した。 ……自分の大切な友達を、困らせる奴には二人とも制裁を欠かさない。 の笑顔が、とても楽しく(そして黒く)杖を振るのに似合っていた。 パァンと、小さな効果音が夜空に響き、 開いている窓から高速で動くピープズに向かって光線はジャストヒット。 「ぐぎゃっ」 呪文を食らったピープズは、ギャァギャァ叫びながらボールの如く高速回転しながら進む。 一年生では習ってもいない呪文だが、ピープズを苦しめるのには最適だと思い、 は密かに練習し、覚えていたのだ。 ――…その名も、"天地無効回転呪文" ギラギラ輝く目でまだピープズを見詰めているだが、はある事に気が付き、すかさず言った。 「…あの声じゃ必ずフィルチさんが現れるよ!そろそろ俺達も戻らないと、 見つかった時にすごくヤバイよ……ね、サック」 「えぇ、でもなぁ…」 その声は、玩具を奪われる子供の駄々声にも聞こえたが――それは仕方ない事だ。 此処で見つかれば、廊下側から顔を見られる可能性は極めて高い。 それに、本来保健室に居るべきが余り長居しては規則違反がバレる事もある。 ハリー達の様子も気になるが……此処が引き際だろう。 二人は、すぃーっと箒を操って保健室のある方へと飛んでいった。 〜§〜 「よいっと!」 箒から降り、保健室へと戻ってきたは、窓の段差を降りて飛んだままのに向きかえった。 そして使った箒をに手渡すと、はニッコリ笑って言った。 「出来れば、ハリー達から理由聞いてみてね」 「おぅ!任せとけクリちゃん!…オレ、尋問は得意だからw」 ニッコリ微笑み合うと、はの箒を手にしたまま箒置き場の方へと飛んでいった。 素敵な夜の散歩をまたしたいと、二人は心の中で同時に思っていた。
あんまり空飛べなかったので、再び飛んでみた。 月の夜に箒で飛ぶと……やっぱりキキちゃんしか思い出せないわw 前回の弁解ですが、の歌は他生徒から聞けば"異国の歌"であって 和英訳はされていない状態です…いつかこの謎も解明されるはず。