「クィレル先生。レポートを出しに来ました」 はそう言いながら独特の雰囲気を出す部屋へと足を踏み入れた。 授の部屋は日光が射しているのにもかかわらず、どこか仄暗く……はあまり好感を持てずにいた。 「ミ、ミスターフジヤ。レポートのてっ、提出ですねっ」 何時ものどもり口調で現れた部屋の主人に対し、は愛想のいい笑顔を浮かべ「はい」と答えた。 の手からレポートを受け取り、教授は少しゆっくり目を通した後にコメントをする。 「素晴らしい出来ですっ!よく頑張りましたね」 クィレル教授のオーバーリアクションに、愛想笑いで軽く引き気味になりながらも、は考えていた。 《の……あの忠告が妙に気になる。》 「では先生、俺はこれで失礼します」 教授に対する疑いを見せないようにしながら、 は足元に置いていた自分の鞄を持ち、部屋を後にする――が。 「お、お待ちなさいッ!」 叫ぶようにして呼び止めた教授に対し、さすがにシカトする事が出来ないのでクルリと振り返る。 「…なんでしょうか、クィレル先生?」 「いっ、いえ、中々貴方とも話す機会が無いので、ぜひこの機にっ、おっ、お話をと……」 どもりが酷い教授の申し出に、は……考えた。 からの忠告を考えれば、この話はとても危険な行動だ。 でも――相手の懐に飛び込むチャンスば今しかない。 「いいですよ。俺でいいんでしたら」 爽やかに承諾すると、教授は近くにあるソファーに腰掛けるようにを促し、 自分は紅茶を入れる為に別の部屋に入っていった。 は、見た目によらず座り心地の良いソファーに身を沈めて教授が戻って来るのを待った。 クィレル教授はアールグレイが入ったカップをに渡しながら話し掛けてきた。 「ミ、ミスターは名前の通りジャパニーズなのですかっ?」 紅茶の甘い香りを楽しんでいたは「はい」と小さく頷いて一口目を啜った。 「日本人はそんなに珍しいんですか? 確かに、この学校で日本人は俺とだけですけど…外国人なら一杯いますよ?」 そう言うとは更に紅茶を口に含み、ハァーっと熱い息を吐いた。 その姿を見て一瞬――教授の眼が鋭くなったが、瞬時の事であった為、当人のは気付くことは無かった。 「……いっ、いえ。ジャパンの場合は“陰陽道”と言う、 魔法とは全く異なる術が、あっありますから!」 あぁ…なるほど。と、は納得しながら紅茶を口に運ぶ。 よく漫画とか、歴史映画に出てくるのをも見たことがあったが、 実際に魔法が使える環境では何とも言えない親近感を持った……が。 「先生、どうかされましたか?」 「い、いえ。何もっ」 考えを巡らせているうちに、クィレル教授の変化に気付き、は声を掛ける。 懸命に笑顔で感情を隠しているが、にはわかる。 ――教授は、何かに対して焦っている。 「…先生!俺、用事があるのを忘れてました。 先生の体調もすぐれないご様子ですし――これで失礼します」 かなり無理がある発言だが、は今すぐここから立ち去るのが 最良判断だと思ったのだ――彼の感は、よく当たる。 鞄を持ち、ソファーから立ち上がって部屋から出ていこうとするに、 教授は「ミスター!」と言って呼び止めようとするが、ドアの前に立つ彼は最後に振り返って言った。 「本当にすみません…紅茶、おいしかったです」 パタン……と言う音と共に、部屋の中には静寂が訪れる。 教授も何も言わずにティーセットを片付け、別室に持っていく。 その表情は、何処か暗いような、安堵しているような……何とも言えない顔をしていた。 ティーセットを置いたテーブルの上には、凝ったデザインの瓶が置かれていた。 手に持てば、光に反射してキラリと輝いた。 「……真実薬が効かないとは…」 教授はそう呟き、大分量が減った瓶を眺めた。 ――減った分は一体誰に使ったのかは、誰も知らない。
…真実薬入りの紅茶を飲まされても何の反応もなし。 強いぜ、クリちゃん(それで済ますな) まだ関わりが見えてこないぜ、どうしようかな。 32000Hit、ありがとうございます。