"Dividing road"


















あぁ…好奇心旺盛な生徒さん達よ……。

頼むから、そんなに見詰めないで下さい。




視線がもし槍に変化していたら、絶対死ぬと思う程の視線が私に向けられていた。

其れもその筈――現在、新入生入場前の大広間に居ます。


そして、何故か組み分けの儀式が終わるまで職員テーブルの隅にいろとのご指示を頂いております…。

なので、二年生〜七年生の全寮の生徒の視線を(必然的に)浴びている次第です。

勿論、穴があったら入って上から砂かけて欲しい位です。


ふと、顔が少し俯き加減だった私の耳に、彼らのざわめきが聞えなくなり、思わず顔を上げる。

静かになるのも無理は無い――新入生達の登場だ。


可愛い可愛いルーキー達は、天井の魔法に圧倒される子もいるし、難しい顔している子もいれば、蝋燭を

つつく子もいる――…かなり緊張してるんだろう。



分かるよ、高校の合格発表を見に行く時のあの気持ちは忘れられないからね。


視線を感じなくなったので、私もルーキー達を見る事が出来、そしてしっかりとジニーの姿を確認した。

あぁ、小学校五、六年生の年齢は、なんて可愛らしいんだろう…ぶっちゃけ戻りたい。


しかし、余計な事を考えすぎていた所為か、新入生の組み分けはあっと言う間に終わってしまった。

ん〜、新入生の寮が決まる時、かなり大きな拍手やら野次が飛ぶ筈なのに、何故聞えなかったんだろう。




「紳士淑女、そしてゴーストの諸君。宴の前に、今年編入する事になったミス・をご紹介しよう」


 私の事を急に説明されたので戸惑ったが、何とか素早く立ち上がる事が出来た。



「彼女は、去年入学する事になっていたのじゃが、諸事情で今年二年生として編入する事になった。

 学力の方は大丈夫じゃろうが、困っているのであったら手を貸してあげるように…

 …では、ミス・。組み分け帽子へ」


「は、はい」


校長の説明が気になっていて、職員席から離れるまでに少々手古摺ったが、私は組み分け帽子の前へ

進み出る。丸椅子に腰掛ける様にマクゴナガル先生に促され、私は少し緊張を押さえながら腰掛けた。


ポフンと言う音と共に、頭に軽い威圧感を覚えた。

その瞬間に、私は近くにいるマクゴナガル先生にも聞えない程の小声で、組み分け帽子に言った。



「……魔力とか、素性系の事は口に出さないでね。お願いします」



其れを聞き入れたのか、組み分け帽子は、何処の寮を希望するか訊いて来た。

その瞬間――又々、腐れ夢女の三波の自論が頭に響く。




――組み分けって言えば、大体夢主人公は獅子寮か、蛇寮に入るね。

だって、大きなイベントって大体このどっちかの寮じゃなきゃ参加できないしさぁ。

まぁ、私だったら、断然――。




「――出来るなら、スリザリンがいいです」


三波の言葉を思い出し、私は"現実逃避気味な友人"とは別の寮を希望した。




「ふむ、確かに君はスリザリンに入る気質を持っているが……何故かね?」


「(どうにもならない程駄目な)某友人と一緒の希望が嫌なだけです」



「分かった。それでは、グリ「死にますか?」スリザリン!!


組み分け帽子の悪戯心に、私は黒い言葉で捻じ伏せて、希望通り、スリザリンへと所属する事になった。

帽子を取られる瞬間、「おそろしやおそろしや」と小さく呟く組み分け帽子の声がハッキリ聞えた。

しかし、最後の脅しの一言は、やはりマクゴナガル先生には届かなかったらしく、笑顔で言われた。



「貴方が、グリフィンドールに選ばれなかったのが、非常に残念です」


「はい、でも。私は別の寮と言うだけで先生を嫌ったりしませんよ」


ニッコリ笑顔でそう返すと、私はスリザリンテーブルへと足を進めた。

空いてる席は無いだろうか……とキョロキョロしていると、丁度良い具合に二年生付近の席で空いている

場所があった。



「此処、いいですか?」


「え…あぁ、かまわない」


私が話し掛けたのは、銀髪のオールバック少年………勿論、他ならぬドラコ・マルフォイだ。

出来るなら、余り親しくなりたくないが、空いている場所が其処しかないのだ。仕方ないだろう。


席に着くと、ダンブルドア校長の挨拶の後、目の前の大皿から映画通り、食べ物がぬぅっと現れた。

ローストビーフやら、ベーコンやら、極太ソーセージやら……日本人だから(心の中で)言わせて貰うけど。



 絶対、普通に食べられるあんた等は異常だし、ぶっちゃけ野菜不足で死ぬぞ?



緑黄色野菜の欠片もないと思うぞ、このメニュー。



「……所で、君は純血なのかい?」


目の前に現れたご馳走に手も付けずに見ているだけの私に、

ドラコ君(あぁ、違和感バリバリだなぁ…)は訊いてくる。



「へっ?あぁ……血筋の事ですね?」


答える前の一瞬で、考えた――…一応、本達には"純血"であるのは肯定したけど、

此処で純血である事を態々言う必要はあるだろうか?


むしろ、あまり原作キャラである彼等と親しくするのもどうかと思う。

ましてやドラコは(相変わらず理由は不明の)私を"此処"に呼び出したマルフォイ氏の息子。

……もしばれたら、終わりだ。


私は、少し作りを混ぜた笑顔を浮かべながら、彼に答える。



「――とりあえず、混血ではありませんよ?…そう言えば、お名前は?」


「あぁ、僕の名前はドラコ・マルフォイだ。君の名は?」


「私は、です。よろしくお願いします」


 私は、そこで会話する事を放棄し、少しの肉物と、多めの野菜を取り皿に装って食べ始めた。



「……か。変わった名前だな」



「えぇ、親が変わり者だったので。でも、気に入っています」


いや、本音を言うなら、気に入っている以前の問題に、苗字のみならず名前まで偽名にしてしまったら、

いざ急に名前を呼ばれた時に困ると思っただけなんですがね。


私は、余りドラコ君と話す気にはなれず、そこで再び会話を閉ざして黙々と食を進めた。





 ・・・・・・とりあえず、私は此処で生きていけそうだ。



 そう、自然な甘さ一杯のにんじんを味わいながら、思った。






編集 5/11

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