"Advice from me"













あるぅ日〜 森のなっかぁ〜 ヴォルさんにぃ〜 出会っちまったぁ〜♪


Q.森の中で、普通の魔法使いが闇の帝王に出くわすでしょうか?



絶対ありえない歌詞が付いた童謡が、ホグワーツに向かって森の中を歩くBGMとなっていた。

……それにしても、森の中でヴォルデモートに遭ったら〜♪なんて、どんな頭してんだよ。私。



「……ミス・?何をしているのですか。」


前方を歩いていたマクゴナガル先生が、何とも言えない様子の私に

気遣って声を掛けてきてくれた……ありがたや、ありがたや。



「いっ、いえ!凄くこの辺りは景色が綺麗だなぁって思っただけです!」


私はさも『戸惑ってる感』をバリバリに出している子供を演じた。でも、確かに――ホグワーツの近くの

景色は見応えがあって壮観だった。生い茂る木々は鬱蒼としているのに、整えている様に綺麗に見え、

朗らかな日が反射して輝く湖面に安らぎも感じる事が出来る。



……こんな光景を見ると、昔家族で行った山の中の景色を思い出すなぁ。

日本とは微妙に違う景色だけど…懐かしい。



 
 「もう少しで着きます。頑張りましょう」



マクゴナガル先生は、そう言い終ると、素早く前を向いて再びまだ出口が見えない森の中をズンズン

進んで行くので、私も、マクゴナガル先生が掛けてくれた『軽量呪文』で軽くなった(大して中身が

入ってもいない)旅行鞄を引き摺って続く。


テコテコと歩く私達の足音と同時に、枯れ木がパキパキと折れる音がして、なんか楽しい気分になった。







 
「でっっかぃ………」



森が開けた先に現れた巨大建築物に、私は思わずそんな声を漏らしてしまった。

さすがイギリス(イングランド)……日本建築なんて端くれだと思ってしまう程の見事なホグワーツ城に

見惚れてしまったが、しかし、さすがにぼんやりと考え事をしながら歩いていたので、何度か転びそうに

なりながらも、正面玄関に到着する事ができた。




玄関ホールに入ると、前を歩いていたマクゴナガル先生が急に立ち止まり、私の方を振り返って言う。



「私はこれから準備がありますので、行きますが、貴方はそこにある部屋で制服に着替えて

 この先を真っ直ぐ行った所にある大広間においでなさい。分かりましたね?」


私はコクコクと素直に頷き、其れを見た先生はスタスタと先にその場を去って行きそうになったが、

再び此方に向き返って言う。



「あぁ…言っておきますが、部屋の中にある黒い布の中は決して覗かない様に」


・・・・・・・・・・・・




すんません、私にそんな事言っても無意味だと思うんですが?

しかし、それをいい終わると、スタスタとその場を去った先生。私も言われた部屋に入った。



・・・・・・


先生に場所を指定された時点で、予想がついたが…明らかに此処ってハリーの組み分け前に入った部屋

だよね?厳しい身だしなみチェックを受けて、新入生を一杯一杯にして詰め込んだあの部屋だ。


其処には、部屋の趣味には合わない綺麗な腰掛けとミニテーブル、

そして先生が言っていた"黒い布の物体"が置かれていた。


すんません。再度言いますが、絶対私なら黒い布取っ払いたくなります。


まぁ、うずうずするその衝動は一度思考の片隅にけっぽって、

腰掛けに移動して旅行鞄の取っ手から手を離して座った。




――…こんな状況になってるのに、未だに此れがリアル世界だとは思えないよ。

此れは、あくまで私の友人(と書いて悪友とも読む)が言っていたドリーム小説って奴に

似てるんだとは思うけど…まぁ、私はハリポタ原作派で、我が友"三波"はドリーム小説派で……。


微妙な討論を日々繰り広げていたのを覚えている。






   あんさぁ、やっぱりハリポ夢の分かれ道って"組み分けの儀式"の時だとおもうんよ!

   ……三波。貴方、昨日は情報の授業サボって一体幾つの夢小説って奴を見たのよ?

   う〜ん。ざっと(シリーズ物)三つかな?

   ――…だから、マウスの動きが中々無かったのね…(括弧の中筒抜けよ)

   いや…だからね!七年間属する所が決まるの!それで、キャラとの絡みもかなり違ってくるし…。

   あ〜、うざってぇ。

   うざったいってスルーするなぁ!




何ともテンションが高い奴だと思う。我が友三波さんは。

まぁ、一種の"夢"であるこの世界では、三波の(廃棄処理ゴミ的な)自論も役に立つだろう。


つまり、組み分け帽子が私の(変な意味で)全てを左右するって訳ね。




「ん〜、何処の寮がいいかなぁ…って言うか、絶対あの組み分けの歌通りだと

  私の所属出来そうな寮って無い気がするし…」


「それは、君の望みに左右される物なのだよ」


「へー。二巻巻末の校長みたいな事言う……って誰ですかっ!つーか、独り言に声が返って来たよね!?」



キョロキョロと、挙動不審な殺人鬼の如く辺りを見回す私。

……今の口調と、聞え具合から言うと、明らかに本達の声じゃない。


でも、予想が付くんですが〜?



「……黒い布の下にでもいるんですか?正体不明のお方」


「正体不明とは失礼な…――所で、君は一体何者なのかね?名前では無く素性だが…」


ギックン…この正体不明の輩は、私の事分かってらっしゃるのかしら!?(言い方からしてそうですが)



「どう言う意味です?」


「君が入って来た時点で分かっていたよ…溢れんばかりの魔力を持っているのにも関わらず、

  核の部分には魔力の欠片も感じられない」


「……そう言う生徒って、やっぱり入学は不可能ですか?」


「ん〜。私は君の素性に関わらず君に合う寮を決めるのが仕事なんだよ。
  
  私が判断する事では無く、あくまで校長が判断する事だ」



えーっと、この会話の時点で、相手が組み分け帽子さんだと分かりました。

でも、リアルに動く帽子さんが見たくないので黒い布は取り払わずに其の侭にしています。



「あの……そう言う魔力の雰囲気って、他の人でも分かっちゃいます?」


「君の気配り次第だろう。私は特殊な面があるからね……君のその魔力の素性は、

  一度気付かれると脆いから気を付けるべきだろう」


常に緊張感を持つのか……和やかなティータイムなんて程遠いんだろうか、私には。


とりあえず、組み分け帽子の前では特殊能力は使っても平気だろう。

そう思って、私は旅行鞄の中から姿を変えていない筆箱を取り出して、ジッパーを開ける。

そして、その中から形態がボールペンに良く似ている物を取り出す。


此れは、所謂指示棒と言う奴で、学校教師が授業中に使うあの棒の伸縮出来るタイプの物だ。

随分前に、文具店で出遭って一目惚れし、実際にボールペンとしても使えるので持ち歩いていた。


私は、指示棒を目一杯長くした所で、よくある指揮棒の長さまで縮めた…まぁ、魔力が手に入った時点で

杖が無いとおかしいのに、私はダイアゴン横丁に行ってすらいないからね。

多分。杖があれば何かと魔法っぽいのは使えるだろうし、この先怪しまれずに済むだろうし。


大きく息を吸って、集中して言葉を紡ぐ。




  この物を、魔を紡ぎだす物へと変化させ、有効とさせよ。

  そして、私が望む時に肯定の解除を可能とする。



指示棒が輝き、一瞬の内に私の知識の範囲で"魔法の杖"と認識される物に変わった。
 

こんな変化(特殊)魔法が便利なのは、持って来たアッチの物が此処で姿を変えても"代償"が来ない事。

自分の姿を変える時も、服を制服からカジュアル服に替える時も便利だった。




「んじゃ、行きますか」



腰に杖引っさげて、変化させてホグワーツの制服に着替えた私は部屋から出て行こうとする。

旅行鞄は此の侭おきっぱでいいと思うから、必要最低限の物しか持っていかない。


そして、扉に手を掛けた時。黒い布の下から声が聞えた。



「君に一つ、アドバイスしておこう」


私が不思議そうに黒い布の方を見ると、其れが分かった様に組み分け帽子は言う。



「……君が今すべき事は、"誰を"信じるのではなく、"何を"信じるかによるのだよ」


何か、どっかの小説で聞いた事ありそうなアドバイスをする組み分けさん。

でも、態々私が出て行く前に言ってくれた事だ。心の隅の"考えるべき事ボックス"に収納しておこう。



「アドバイスありがとう。何か異様に無理難題が私の目の前には山積みだけど、頑張ってみるよ」


最後にそう言って、相手が見えない筈なのにニッコリ笑って部屋を出た。









貴方の、愛の一票を→ワンドリサァチ!


編集 5/10

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