"Weak's fights"













望んだ未来は、

まだ、私の手の内にある?













「くッ…!」




ドン、と鈍い音と共に体の自由が利かない私は、背筋からの痛みに呻いた。

あぁ、痛い。言葉で表現する必要も無い。


スルスルと、身に又何かが巻き付く様な感覚がしたが、

既に言う事を聞かなくなった体にはどっちでもいい。




痛みで反射的に強く閉じた瞼を開き、前方に立つ彼を見る為、顔を上げる。

何時拾ったか知らない。でもリドルの手には、しっかり私の杖が握られていた。






「…ご丁寧に、杖主との繋がりを切ったね」





そう言い終ると、"只の杖"であるソレを、後方の闇に放り投げた。

…そして刺すような、毒々しい冷笑を浮かべる。








――…恐れちゃいけない。



自分の中で、何度も暗示を掛け、恐怖から逃れる為の証拠をかき集め、そしてそれが崩れるの音を聞く。

見詰める紅の瞳を見れば見るほど、証拠は無くなり、暗示も弱まる。

眼を逸らせない…瞬きを忘れ、顔の痙攣から全身へ"震え"として、恐怖が流れていく。





「――Silendo!





突如突きつけられたソレに対して、私は思わず強く強く眼を閉じた。


でも、突きつけられたのはジニーの杖で、唱えられた呪文が"黙らせの呪文"である事に気付き、

慎重に瞼を開ける…――が。






「……ッ!!」






体全身を襲う…激痛。


断続的に、それも弱まる気配すら見せない痛みを、私は口を開けて表現する。

でも、私の声は出て来ない。






「君の悲鳴なんて、聞きたくもないからね」






体に残る痺れに抵抗していると、はっきりとした彼の声が上から降ってきた。


…油断してた。


彼は、私を殺す気は無い――しかし、殺さない程度の苦痛を与えるだろう。

生きていればいい、精神が壊れようが。




あぁ、怖い。


言葉で、本心が呟く。

懸命に隠していた感情が、震えが、寒気が、嘔吐感が…そして、涙が溢れる。

背後の柱が、妙に冷たい。





上げられぬ、聞こえぬ絶叫を上げながら、私は何度も襲ってくる痛みの中にいた。











「君は、何も選ばず、表を繕い、ここまで生きてきた」





全てを飲み込むような刺激の中、遠くから響く様に、リドルの声が聞こえる。





「自信が無かったから?時間が無かったから?判断能力が無かったから?

 …君が言うのは、全て"弱者の戯言"だろう?」





あぁ、聞きたくない。



悲鳴で掻き消そうにも、声を奪われてしまっていれば…耳にしっかりその言葉は届いてしまう。

彼が言うのは、全て人が持つ闇。


その闇に、彼は私と言う人間を特定させる言葉をつけて、紡ぎ続ける。






「……只のマグルが、何故選ばれたんだろうね。

 覚悟もなく、こんなに脆い――」






独り言のように、ぶつぶつと彼は言う。


痛みは、増す。


リドルの何か――恐らく、感情――に反応しているんだろう。

何か、彼が許せないような事を私がしたんだろうか。

それとも…本達が?




自分に巻きつく縄が、更に体を締め上げる。

苦しい……苦しい。














ふいに、痛みが引いていく潮のように去って行った。

全身に残るのは、暴れた際に出来た擦り傷の痛み。


刺激が突然遠ざかった所為か、再び体がカタカタと震えだす。

息は乱れ、朧な意識でなんとか頭をあげれば……遠くを見詰めるリドルが、見えた。

黒い髪、鋭い朱の瞳が見詰める先は…この場の出入り口のようだ。






「…早いな」





ボソリと、彼が呟く。

今の意識では、その言葉がどう言う意味を持つのか分からない。

視線が、遠くでは無く私に注がれ、既に遅いが又俯く。






「君は、死ぬのが怖いかい?」






振ってくる声は、まるであざ笑うかのように、冷たかった。

しかし、それは同時に別の感情を含んでいるようにも聞こえて。




――…それを理解する前に、鳩尾に、鋭い痛みが走る。




息が、出来ない。

痛みは頭に達し、くらりと視界が歪み始める。


嫌だ…!


懸命に耐える私の耳に、彼の声が届く。







「…それとも、自分の過ちから生み出された"誰かの死"かい?」






彼の問いかけに、私は答えられなかった。

声も出ない。意識も遠のく。

でも、私の心の中では答えが既にあった。







――…私は、全ての死が怖いんだよ。

















反転あとがき(話的に公にしない方がいいと判断したので)
リドルの魔法が主に効くのは、前回で壊したのは杖と断続的に奪っていた主の魔力であって。
結局のところリドルの攻撃は主には効くのです(ややこしい)
そしてリドル…キャラが変ですよ。

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