"dragged"
ギィ、と軋むドアを開けた後、沈黙が訪れた事に安堵の息を漏らした。 よかった…メアリーは丁度出かけているらしく、聞こえるのは小さな水滴音だけ。 背後のドアを閉め、私は数歩足を進める。 しばらく見ない間に、此処はすっかり元に戻ってしまっていた。 寧ろ、記憶にある中でも、此処まで汚れた事はなかったのに、今は惨い。 手洗い場に近づきながら私は、今は誰も腰掛けていない場を見る。 「…メアリー」 彼女には悪い事をしたと思う。 …だとしても、私は彼女に気休めにもならない幸せを与えられただろうか。 胸を苦しめる感情を拭って、手洗い場の前に立てば、ふとあるものが目に入る。 それはヒビの入った花瓶に挿された一輪の枯れた花。 いつぞやに、私が持ってきて飾った記憶がある。 ――…最後に。 さっと杖を潜ませていた袖から出し、小声で呪文を唱え花を蘇生させ、保護する。 きっと気付かないだろうな…いや、気付かないほうがいい。 一息ついて、花を見ていた――その時、その場に轟音が響く。 「!?」 見れば、秘密の部屋の入り口が、ゆっくり姿を現していた。 何故。 私は何もしておらず、ましてやパーセルタングも話せないし、言葉すら発していない。 突然の事に一瞬たじろいだその時――入り口から、私に向かって長い何かが伸びてくる。 「こ、来ないで!」 杖で応戦しようにも、とっさに上げたその腕に絡みつかれ、痛みで言葉が出ない。 その何かが、何本か自分の体に巻きついた頃になって、ようやく正体を知った。 蛇だ。漆黒のうろこで、眼と長い舌は血の様に、赤い。 そう頭が認識した直後――…ぐぃ、といとも簡単に体のバランスを崩され、パイプの中に引きずり込まれた。 仰向けで落ちていく私の目には、しっかり入り口の光が遮られていくのが見えた。 「い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 闇に包まれた恐怖で、誰にも届かないであろう悲鳴をあげながら。 仰向けで落下するって、凄く怖いと思う。 |