"dragged"


















罪は背負うもの?

ううん。罪は見つめて、触れて、ゆっくり解きほぐすもの。








肌が、ゾワリとする。

おかしい、今日は何かおかしい。

そう確信してから、ようやくその理由を思い出す。




五月、二十九日。

ハリー、二年生での大一番。




ジニーの意識を完璧に支配しようとしているリドルは、自分の魔力をフルに使っているらしい。

それに同調してか、内臓がキリキリと締め上げられる様な痛みに襲われる。


使ってる。私の、ディアスや他の預言書達の力を。


杖から持ち主の魔力を吸う事なんて、まず出来ない。

あれは預言書の力を私と魔力へ変換させ、その上私が自分の魔力を芯としてしか使えない杖。

……そう、私が使う事を前提にしている所為か、私の魔力を自然と奪う形になってしまっているらしい。

つまり、リドルは自分の魔力を消費せずに、魔法を使える。




《…減るばっかり……その所為か、人を寄せ付けないようにした肯定も弱まっている…》




その所為で直接話すことは無いが、ドラコや教師達の視線がいつも付きまとう。

――ドラコは本当に心配してみているのだろうが、教師達は違う。

私は、問題児扱いなのだ。きっと。




どうした?」




目の前に現れた朝食を見つめ、しばらく黙っていた私に声がかかる。

そちらを見れば、早速パンに齧り付いているグレゴリーが、少し心配そうな顔をしている。




「いえ、食欲が無くて…私の顔色、悪いですか?」

「かなりな」




そういい終わると、グレゴリーは今度はソーセージに手を伸ばしていた。


……顔に出てしまってるのは、なんとも痛い。

こんな日に限って――移動も制限されるのに。

深くため息をついて、私は唯一まだ口に出来そうなかぼちゃスープのゴブレットを引き寄せた。








〜§〜








ギィ、と軋むドアを開けた後、沈黙が訪れた事に安堵の息を漏らした。

よかった…メアリーは丁度出かけているらしく、聞こえるのは小さな水滴音だけ。

背後のドアを閉め、私は数歩足を進める。


しばらく見ない間に、此処はすっかり元に戻ってしまっていた。

寧ろ、記憶にある中でも、此処まで汚れた事はなかったのに、今は惨い。

手洗い場に近づきながら私は、今は誰も腰掛けていない場を見る。




「…メアリー」




彼女には悪い事をしたと思う。

…だとしても、私は彼女に気休めにもならない幸せを与えられただろうか。


胸を苦しめる感情を拭って、手洗い場の前に立てば、ふとあるものが目に入る。

それはヒビの入った花瓶に挿された一輪の枯れた花。

いつぞやに、私が持ってきて飾った記憶がある。



――…最後に。



さっと杖を潜ませていた袖から出し、小声で呪文を唱え花を蘇生させ、保護する。

きっと気付かないだろうな…いや、気付かないほうがいい。

一息ついて、花を見ていた――その時、その場に轟音が響く。




「!?」




見れば、秘密の部屋の入り口が、ゆっくり姿を現していた。

何故。

私は何もしておらず、ましてやパーセルタングも話せないし、言葉すら発していない。

突然の事に一瞬たじろいだその時――入り口から、私に向かって長い何かが伸びてくる。




「こ、来ないで!」




杖で応戦しようにも、とっさに上げたその腕に絡みつかれ、痛みで言葉が出ない。

その何かが、何本か自分の体に巻きついた頃になって、ようやく正体を知った。

蛇だ。漆黒のうろこで、眼と長い舌は血の様に、赤い。

そう頭が認識した直後――…ぐぃ、といとも簡単に体のバランスを崩され、パイプの中に引きずり込まれた。

仰向けで落ちていく私の目には、しっかり入り口の光が遮られていくのが見えた。




「い、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




闇に包まれた恐怖で、誰にも届かないであろう悲鳴をあげながら。












仰向けで落下するって、凄く怖いと思う。

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