"Do not touch"






















もう二度と、戻ってくることは無いと思ってた。

でも今私は――此処に立ってる。










静かだった。


いや、此処……スリザリンの談話室はいつもこんな感じだった。

ただ、私の知っている静寂と違うものが流れているからだろう。


片手に全財産を詰め込んである鞄を持ち、少し痩せてしまった私への視線が、いたる所から飛んでくる。

…私に関して、どんな噂が飛び交ってたんだろうか。

襲われた?石化した?もしくは死んでた?……それとも、逃げ出してた?





!」





突如上がった大声に、一瞬驚いたものの、その声の主である彼――ドラコの姿を見つけてほっとした。

久々に見るドラコの顔は、気のせいか…いや、気のせいじゃない。顔が真っ青だ。

ドラコは私の鞄を持っていない手を掴んで、切羽詰まったような声で言う。





「よかった…スネイプ先生に言っても会わせてくれないし…よかったっ」





そんな安堵の表情を浮かべる彼を見て――私の内の何処かが痛む。

……もし、私がケンタウル達に殺されていたら…彼はどんな顔で"それ"を受け止めただろう。

そう言い終わるや否や、ドラコは私の手を引いて談話室の隅のソファーへと進む。

確かにあそこに立って話し続けるには、余りにも視線が痛い。


ポスンとソファーに腰掛けて辺りをみれば、何時もの談話室に戻っていた。

只何時もと違うのは、グレゴリーとビンセントの姿が見えない事。





「…心配かけて、すみませんでした」





向かい合う形になって暫しの間の後…私は小さくそう言った。

――ドラコを見ていると、どんなに自分が愚かだったか突きつけられる気がする。


こんなに心配させてしまったのに、こんなに想われてるのに。

でも、私は彼の父に殺される可能性があるのに…。






「色々あったんです…でも――それを説明することは…」

…どうして僕に…っ」






荒くドラコはそう言うが、最後まで言葉を続けなかった。

不思議だと思った。でも俯いていた顔を上げることが気でない。

見えるのは、ゆっくり振るえ始める、スカートの上に置く両手。


言ってはいけない。

それが、こんなに苦しいと知らなかった。

こんなに、見えない感情に心を串刺しにされると思わなかった。

彼の顔が、実際に見えなくても、脳裏に浮かぶ。

そんな顔にさせたのは――他ならぬ、私。






「わ、私の事は、もう気にしないで、下さい。

 ドラコの思いに対して、私は、何も返せないんです…っ」






ぐぃ、と鞄の取っ手を握り、走るように、でも歩くように、女子寮の階段を下る。

後ろで彼の、叫びに等しいような、声が聞こえた気がした。











〜§〜













ベッドに倒れ、天井を無言で見つめる。

そして、手に持つ物をゆっくり自分の視界の中に入れた。

漆黒の下地に、所々茶色が混じる杖だった。

ディアスに言われ、自分が持ってきた物の中から再び杖へと変換させたのだ。





「…杖」





――この杖で、本当に戦える?

頭の中でそうきくと、帰ってくるのはこの言葉。






「戦うしかない。未来を、戻すしかない」






そう言って、掲げていた手をパタンとベッドの上に落とし、目を閉じる。

可笑しな話だと思う。

未来を知っているなら、その未来を変えるために必死になるかも知れないのに。

…今私がやってるのは"筋書き通りの未来"に戻す事。






「……変なの」






静かに、そう言った。
















味方を自分から無くしていく事が得意らしいですな…。
最後ボロボロだなぁ…さて、最後に向かいましょうか。

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