"Drizzle mind" ――時の経過は、恐ろしく早い。 それでも、後悔や未来への希望は、常に私の心を揺るがせている。 しとしとと、まるで小さいながらも傷ついた心を持った様に、 雨空が泣いている様に感じる彼女は雨宿りをしながらも、思わず溜息を漏らした。 うねり等が一切無い漆黒の長い長い長髪に、輝くシルバーアイ。 そして、十一歳の割には少し高め背を持つ彼女は、その容姿には少し不似合いな鞄を持って、 何時までも空を見詰めていた。 長髪の彼女は――――何故か、私だったりする。 勿論、私の元の容姿は今みたいにいい筈が無い。 この世界にいて、違和感が無い程度に(自分の好みを含めた状態で)本の力を借りて姿を変えた。 昨日の森からそんなに離れていないこの少し大きめの街に辿り着いた私は、 突然の通り雨になす術も無く、屋根があるベンチで一人考え事に耽っている。 本音を口にするなら、私は何故こんなに落ち着いていられるのか、不思議で仕方が無い。 自分の感情まで、本の影響を受けているとは思いたくない。 ……そして、私はあえて本達に必要以上の質問をしていない。 ――――真実を受け入れるのが、まだ怖い。 「――なんか。凄く弱かったんだなぁ……私」 半笑いで、独り言を言う。身近にいた人が一切居ないこの世界で、私は全人類の一部分にしか過ぎない。 いや、むしろこの世界からも拒絶された存在になっている可能性だってある。 私の手に伸ばされる希望の手は……この世にあるだろうか? ――無いと言える。私の素性を知る人間はごく少数だし、むしろ救いを求める私は馬鹿だ。 一人で、生きてやる。 「とりあえず……金稼ぎか!」 私の心の靄は一時的に晴れ、其れと同時に天候もかなり回復し、雨も止んでいた。 私は勢い良く立ち上がり、雲の切れ間から光が差す道路へと足を進め始める。 山済みの問題は、とりあえず後回しにしよう。 今、動かなくて、一体私は生きて行く為に何時動くんだ? 雨宿りを終え、ブラブラとその場を歩いていた私は、何時の間にか大きな噴水広場に出ていた。 そこには、雨が止んだばかりで疎らだが、多くの大道芸人が喝采を浴びていた。 その表情は生き生きとして、何とも新鮮だった。 そして、私の中に素通りしそうになったその光景で、いいアイディアが浮かぶ。 「もしかして………ひと稼ぎの可能性はあるかも」 急いで、私は大道芸人達の中の一人、金髪のバルーンアーティストのもとに歩み寄る。 アーティストの男は、優しそうな顔で「やぁ、お嬢ちゃん」と言って、 バルーンのリクエストを聞こうとするが、私は素早く訊く。 「すみません。此処でこう言う事やるのって許可いりますか?」 アーティストの男は、驚愕の眼差しを私に向けた。 無理も無い、姿は十一(中身は十六歳なのだが)の子供にそんな諸事情を聞かれるとは……ごめんよ。 私もきっと思うだろうから、此処は広い心でお願いします。 「ん〜…確か、許可は要らないよ。でも、そんな事訊いてどうするんだい?」 あ〜……このピエロメークしてるお兄さん。優しい笑顔なんだけど、何でだろう。 微かに黒いオーラを感じる。いやピエロオーラ? 「いえ、それでは!」 完全に受け流しの体勢を取って素早くピエロ男から離れる事にした私。 あまり長居すると、黒オーラに食べられそうな感じがした。 まぁ、いい情報を貰ったのは間違いない。許可無しで出来る……。 私はキョロキョロと辺りを見回す。 晴れてからだいぶ時間が経ってくれたお陰か人の数が多くなって来た。 ――目論見が成功する確率が高くなってきて、思わずニヤリとする。 そして、丁度いい所に空きスペースを見つけて、駆け寄る。 私は、すぐさま持っていた革の通学鞄を降ろして大きな深呼吸をする。 今、自分がやろうとしている事の確認、そしていざと言う時の対応策――よし、大体固まった。 濡れた石畳に置いた革の通学鞄の中を物色する…数学Iの教科書に… MD……ケイタイの充電器……おっ、いいものあった。 随分前から鞄の中に入れっぱなしのアルミの缶ボックスだ。 中身を強引に鞄のなかにぶちまけ、それでも残ってしまった物は指で摘んで鞄の中に入れる。 そして、自分の眼前の石畳に蓋を開けた状態でカタンと音を立てて置いた。 再び、目を閉じて深呼吸する―――少し、大胆かもしれない。でも、小さな可能性も今の私には大切。 ――今やらずに、何時やるんだって言うんだ。 「“貴方に声を…” ――行きます」 天を仰げ、時空を、掻き回せ…――! 編集 5/10 はい、少し少なめ。さんの心の描写がムズイ!! さんは、開き直りタイプです。それで現実を見詰めないって言う欠点も少しありますが…… それは、彼女の個性だと思って、暖かく見守ってくださいw |