"Confusion" ――嫌な予感が、体中を駆け巡った。 体がまだ疲労感で全然動かないし、目を閉じた侭なので、今何処にいるのかも確認していない。 でも、背中全体に凹凸のある何かがぶつかっているので、きっと仰向けに倒れているんだろう。 絶対、さっきの奴らの場所の近くに又私がいたならば――本達め。破り殺してやる。 ……その時には、我らの具現者である――――君も死ぬ事になる。 ………………………………………………………………………… …………………………………………………………… ……………………………………………はぃ? 頭の中に響く声の所為で、私の情報処理機能は止まった気がした。 「つまりさ。私はさっき名前を言った時点で、貴方達の“具現者”って奴になっちゃったんですかねぇ?」 ――…結論を言うならば、君のそこ言葉は完璧と言ってもいいだろう》 深く溜息をついた。あーあ……嫌な予感って、この事だったんだろうか。 「――んーっと、なら。完全に混乱してる私の精神を安定させる為にも 1、今の現状 2、私がすべき事 3、此れからどうすれば良いか 4、私へ一言 を、貴方達がお上手な“言葉”で教えていただけますか?――私が処理できる範囲で」 相変わらず、目を開ける気がしない。さっきの事は確かに現実――でも、眼を開ければ何時もの 目覚めの光景が広がるかもしれない。 ……古ぼけた天井に、埃が溜まった蛍光灯が何とも言えないほわほわな光で眼を刺激するかもしれない。 ――そんな事が可能なら、その前にこの分かりづらい現状説明を聞いてからにしようと決めたのだ。 《……理解した。君が質問した内容に、長くなるが、全て答えをつけよう。 今の現状について簡潔に言うのなら、我らの具現者となった時点で、君への“多くの者からの制約” は極限まで薄くなっている。この世界に存在する政府機関は、君を何かの方法で探そうとしても正確 な情報は手に入らない。 ――つまり、先刻の者達にも、今の現状では略見つかる可能性は無いだろう。 そして、更に詳しい情報を口にするのならば、既に物語りは始まっている。主人公である人物は、今 十一歳となる夏休みを迎えたばかりだ……つまり、君がいるこの時はまだ“一年目”だと言う事だ。 次に、此れからすべき事だが。唯一口を出すならば……我らとて完璧ではない。 先刻言った“多くの者からの制約”は薄くなっている物の、君は闇の者に姿を見られている。 姿や自分が有する物の姿を変換した方が得策だと、我らは忠告しておこう。 君がすべき事――この質問には、はっきりとした答えを、我らは返せない。 通常、君が動こうとしない限り、我らは君の行く手を遮る事はまずない。 言うならば、今この状況では具現者である君の方が、預言書である我らより上の存在だ。 もし、君が行動を起こすのなら、その決意を我らに伝えてくれ。我らからは、君に対して訊かれた 内容意外伝える事が出来ぬ。 そして、最後の“君への一言”だが………君に、本当にすまない事をしたと、我らは心から 思っている。しかし、我らには君しかいなかった。そして、君が具現者にならかった時点での、 我らは君の“孤独化”を恐れた。 だから、君の名前を強制的に聞き出し、契約を結ばせた。その点については、深く謝罪しよう。 ――――すまなかった》 彼等の話は長かった。しかし、全てに等しい程。理解できてしまう自分がいたのも事実だった。 再び、私の耳と心に、長い、長すぎる沈黙が戻って来た。 「ねぇ………………その、姿の変換とかってさ、今やらないと駄目?」 …いや、君は疲れている。君は目を閉じたままだが、今君と我らがいるのは先程と違う森の中だ。 幸い、この森には闇の者達も、血に飢える者達もいない……朝まで、我らが君を守ろう。 「そりゃあ………安心だねぇ」 少し笑いを含んだひ弱な声で、独り言の様に呟いた。そして、唯一感覚が残っていた右手を緩ませ、 通学鞄の取っ手を放した。 目の前は闇―――そして、私の意識も闇へと落ちていった。 〜§〜 「何故だ!?何故あんな小娘一匹の行方が分からない!?」 自らの屋敷で、ルシウス・マルフォイ氏は叫んでいた。 先刻、迂闊にも逃がしてしまったマグルが、何故かどんな手段を使ったとしても行方が分からないのだ。 明らかに、少女には闇の魔術も、それ以前に“魔力”の欠片も無く、完全なマグルだった筈だ。 ――勿論、マグルだからと言って其の侭野放しになどはしない。 例え忘却術を掛けたとしても、強力な魔法はそれを打ち破ってしまう。 最低でも、少女は“死”をと、考えていた。 しかし――――彼の中には多くの疑問が残っていた。 自らが行った闇の魔術で、何故望みと一切関係無い様な少女が現れたのか。 少女に、何故“死の呪文”が効かなかったのか、 そして………少女と共に姿を消した、あの本は…。 彼には、焦りと疑問がしか眼中になかったが、不意に、自らがいる部屋のドアがノックされた。 「………入れ」 その言葉と同時に、数人の人物と、その一団の後に、彼の家で雇われている一匹の屋敷しもべ妖精が ヨタヨタとした足取りで着いて来た。 屋敷しもべに対して、完全な差別の瞳で見詰める彼だったが、今は事の重大さが彼を動かし、入って来た 人物達――彼らが、死喰い人だと言う事は言うまでも無いだろうが――に、小声で話しかける。 「何か分かったのか?」 「あぁ……マクネア達が、此処から4キロ程先の森の中で、あのマグルを発見したそうだ。 仕留めようとしたらしいが―――――」 何故か、目の前にいる男は、続きを言おうとしない。苛立ちを募らせる彼に対し、ボソリと呟いた。 「――――忽然と、姿を消した」 「馬鹿な!マグルは“姿くらまし”など使えない!あの小娘には“魔力”の欠片すら感じられなかった! なにかの間違いだろう……」 彼はそこで会話を中断し、屋敷しもべに鋭い目で「立ち去れ」と警告し、その本人もそれを感じ取って ビクッと震えて、背を向けた――その時だった。 「待て、しもべ―――ルシウス。"アレ"は、此処に居なければならない」 背の低いずんぐりとした男が、屋敷しもべを引き止め、彼に向かってその理由を説明する。 彼は不快に思ったのか、少し息を荒げて反論しようとしたが、その前に現状報告をした男が話を続けた。 「我々も、そんな筈など無いとその付近をくまなく探した。 ……すると、あのマグルの代わりにそこにいる君の所の屋敷しもべが気絶している所を見つけたのだ。 もしかしたら、あのマグルについて、何か見た可能性がある」 彼の顔が、一瞬愕然とした表情を浮かべたが、直ぐに屋敷しもべをキッと睨んだ。 その睨みは鋭利なナイフの様な鋭さが有り、思わず屋敷しもべは「ヒッ!」と小さく叫んだ。 「ドビー。お前に言葉を理解する能力が有るのならば、私が訊きたい事が分かるだろう――。 お前は、何故その場で気絶などしていた?」 「ドッ、ドビーめは、奥様から言付かった用事を済ませ、早足で屋敷に帰っていた所でありました!」 キーキー声に、マルフォイ氏以外の死喰い人も思わず視線をドビーへと移す。 それに一瞬ドビーは動揺したようだったが、自分の主人の殺気立った眼で見られて、急いで続ける。 「早足だったのですが、ドッドビーめは、小さな泣き声でその場で止まってしまったのです! ドビーめは、その声が気になり、その声がする方を見に行ったのであります! そしたら、か、変わった格好をした子供が、楓の木の根元で泣いておりました!………」 「――その子供は、一体何をしていた?」 あまりにも不必要な部分が多い為、痺れを切らして男が訊くと、 ドビーはさっき以上に早口で説明を再び開始する。 「さ、最初は泣いておりましたが、急に泣き止んで、ある方の名前を呟いておりました! ……“ハリー・ポッター”と!」 その場にいる自分以外の者の顔が青ざめたのを、ドビーは目撃していた。 しかし、此処で会話を途切れさせてはいけないと思い、素早く言葉を続ける。 「そ、それから、子供は自分の辺りに散らばっていた本を集め、自分の前に置いたのであります! そして小声で何かを呟き、本を開いたのであります!すると、ページが輝き、文字が浮かんでおりました! 子供は、驚いたり、呆れた様な顔をしたり、おりましたが、ドビーめは……」 ドビーは気付いていた。今自分が話している少女の事が、主を含む全員が情報を欲しがっていると。 ……成らば、尚更この続きを口に出来ないと判断していた。 「……早く続きを話せ」 「…ドッドビーめは、子供の様子を見るのに夢中になって――背後から来る“何か”の存在に気付かず…。 ――気絶してしまったのでございます!!」 最後の一言を言い放ったドビーの顔は、恐れ慄き、何とも哀れに見えて仕方が無かった。 ドビー自身も、視線による切り刻まれる様な痛みを耐える為に、主から眼を離して俯いた侭だった。 「――もういい。下がれ」 「は、はぃっ!」 視線での抹殺を逃れたドビーは、猛スピードで部屋を出て行った――。 きっと、随分行った所で安堵しているのは言うまでもない。 部屋に沈黙が流れる……異様に長く、そして何か発言した時点で誰かが仕掛けた地雷を踏むのと等しく、 仕掛けた当人が発言するのを待つ事に、招かれた者達は待つ事にした。 「……すまない。私も、此処から出来るだけの事をしよう…マクネア達と共にいて欲しい」 彼の力無い声に、招かれた者達は心底驚いた。しかし、今詮索は無用だと思い、 すぐさま『バシッ』と音を立てて姿くらましをして、招かれた者達は去って行った。 ――――…一人の少女は世界に翻弄され、 もう一人の者は、その少女に心を掻き乱される―― 編集 5/10 畜生!名前変更だせやしねぇ……。 ルシウスファンの方――御免なさい&ルシウスさんってこんなモンですか? ちなみに……極度の余談ですが…。 マルフォイ宅では、家の中へは一切姿現しは出来ませんが、家の外へは一部の認められた者(今回の場合は死喰い人メンバーですが) は姿くらましが可能なのです(ややこしっ!) |