"Runaway"
瞬時に私は態勢を崩すことも恐れずに横に身を逸らした。
――去ったその場に、何本もの矢が放たれていたのは、言うまでもなく。
私は走った。後ろなんて振り返らずに、只ひたすらどこかを目指して。
雪で足をとられながらも、頭の中ではひたすら多くの事を巡らすばかりだ。
継承者…とは、恐らくリドルの事なんだろう。
私が何時彼に力を与えた?そんな事私が出来る筈がない――自らその"代償"を受ける気にもなれない。
逆に私は彼の所為でこの世界に来て…何処までも彷徨うような立場に置かされて……。
《…クラウンの"肯定の力"が効かないのは――…》
不意に頭の中によぎる、彼の言葉。
そうだ…――何故、ケンタウルスの矢は私に届いたのだろうか。
リドルが私に攻撃できた理由は分かる。彼がクラウンと同じ"書物の魔力"を有していた…多分それだ。
――…なら、何で…?
「どうなってるのよ…っ」
何時の間にか目に溜まっていた涙が今にも溢れそうになっていた。
私は――何回死への恐怖に怯えてきたんだろう。
怖い…でも気持ち以上に足は前へと進まない。
森を熟知している彼らの方が圧倒的に優勢で、私は既に手の上で逃げ惑っているだけかもしれない。
それが、苛立たしい様な……底知れぬ恐怖を感じるような…嫌な気持ちになった。
シュッ
「――ッ!」
右方向から飛んできた矢が老木に深々と突き刺り、私は手に持つ枝杖を強く握り締め、
次の攻撃を仕掛けようとしている金髪のケンタウルスに向かい、声を張り上げた。
「Expelliarmus Maxima!」
紅を超えた凄まじい閃光が彼にぶつかり、その衝撃によって武器所か自らまで吹っ飛ばされていた。
気を込め過ぎたのではないかと罪悪感に襲われたが――後方から迫る新たなる敵に対し、呪文を放つ。
死にたくない――。
私は…何かを殺してまで生きたいとは思わないけど――。
ドンッ
誰かに強く突き飛ばされるような衝撃が、背中に走った。
白銀の雪が視界に迫り――ドサリと力なく倒れこんだ。
あっけなく、全身の力を一気に奪われた様に身動き一つ出来ない。
このままではいけない…そう思い、無理にでも立ちあがろうとするが――
「うっ」
腕一本動かそうとするだけで全身が凄まじい痛みに悲鳴を上げた。
焼くような、神経その物が凶器と化している様な……。
「具現者よ。汝が犯した罪は、汝でしか償う事はできない」
影が落ちたと思うと、上から彼らの長の声が降ってきた。
何処か悲しそうな、それでも殺気を決して失っていないような。
「これが汝の選んだ末路だ――」
パキンッ
心の中で、何かがひび割れる音がした。
逃げても、逃げても追ってきた真実が
今、目の前に立ちはだかった存在の向こう側に見えた。
――…冗談じゃない。
「……や…」
悲鳴を上げ続けていた体をゆっくり、確実に立ち上がらせ、群れを成す彼らを睨む。
彼らは相当な自信があったらしく、実際に起き上がった私に目を見開いている。
「……嫌なんだ…」
口にした言葉は、何処か怒りで満ち溢れていた。
こんなに弱弱しい私…そして、簡単に私を殺そうとする彼らに。
「…私は、確かに色んな人の運命を変えて…貴方達から見れば死んでもいい存在なのかもしれない。
でも…でもッ!私は死にたくなんかない!死ねないの、死んではいけないの!!」
私の話を聞いても、きっと彼らには理解されない事は分かってる。
でも、
私がどんな罪を犯しても、
酷い怪我を負っても、
他者運命を掻き乱しても、生きたいのは――。
「私は、遠すぎる大切な人と再会したい――ただそれだけなのよ!!」
言い切った……そう思うと、体は再びバランスを崩し、今にも意識を手放そうとする。
今こそ手放してはいけないと思いながらも、心は遠ざかる。
視界が暗黒に染まっていってしまう――。
その先に、死があるとはどうしても思いたくなかった。
乱れまくりの文章です。
でも、このまま見続けてくださいっ(泣)
ちなみに、前回出てきた「テータ・コロナェ」は大晦日の守護星。
次から二回連続で第三者視点。
back top next
|