"Star of jade "
傷口から頬に血がスゥっと流れた。
気のせいか、流れた場所まで鋭い痛みがした。
私は驚いて、すぐその場から身を動かして少し離れた。
弓を使う者は二つしか思いつかない…でも、森番のハグリットが人影にすぐ攻撃を仕掛けるだろうか?
となれば、やはり――。
「…ケンタウルス」
「汝に名を呼ばれる筋合いはない」
私が口にした言葉に対し、数メートル先の茂みの中から声が聞こえ、私は杖を構えて睨む。
姿を現したのは毛並みが美しい凛々しいケンタウルスが一頭……いや、いたる所の茂みから何十頭という
数のケンタウルスが現れた。
全く気付いていなかったが――囲まれている。
彼らは手に持つ弓の矢先を私に向けたまま静止し、そして中でも特に威厳がある一頭が話しかけてきた。
「具現者――よ、汝が我等の森に踏み入れる事が愚行であるのを分かっての事か」
緊迫した空気の中、薄っすらと滲む手の汗を感じながら、出来るだけ冷静に思考を回転させる。
…何故ケンタウルスは私が具現者であるのを知っているのだろうか。
リドルが禁じられた森から私が逃亡するのを見越してケンタウルスに情報を流した・・・?
でも、この空気には――どこか見えぬ殺気がある。
「…確かに、無断でこの森を抜けようとしました。でも、それは――私の勝手です!」
気が焦り、思わず強気な発言をしてしまうがケンタウルス達の表情は一切変わらない。
……私の『知識』の中でも知らない、とても冷たい態度。
「勝手……汝はそのように言い切れる分際か!」
話し掛けて来たケンタウルスの直ぐ後ろの一頭がが急に怒りの感情を露にするのに、私は驚いた。
何でこんなに彼らは私を敵視しているのだろうか?
私には彼らとは何も接点が無いし、むしろ彼らは"傍観者"としてのイメージが強い。
なのに…何故こんな……。
殺気とも言えるオーラを出している先刻の一頭をなだめた後、代表の彼が私をしっかり見据えて言う。
「具現者よ。我等に流れる血には"星見"の力が込められている。
しかし、我等は"未来"を知の一部として有するに過ぎない――見よ、あの翡翠色に強く輝く星を!」
代表――否、長である彼は北西の方角にある一等星程の深緑色に輝く星を指差し、私に言い放つ。
「あの星の名はテータ・コロナェ。"継承者"の象徴であり…あのような輝きなど放っていなかった。
我等は一夜の星見で数年先までの未来が分かる。それが突如輝きを増し、放つ色さえ変化した!
――何故だか、汝は知ってるか!」
形相と共に、口調まできつくなる長の言葉を私は必死に天文学の知識を思い出す。
星には、それぞれ存在する事の意味があり、もしも星自身の輝きや色に変化があった際は――。
「具現者である汝が、未来を変化させ"継承者"に力を与えた所為だ!
多くの者が汝の"勝手"な行動により運命を狂わされ、死に追いやられる可能性があるにも関わらず!」
ケンタウルス達の、弦が更に引き伸ばされギィと微かに音を立てた。
そう…私は"勝手"過ぎた。
あそこにいて、それでも目立たない様にして来た――でも、私の存在その物がいてはいけなかった。
私は、舞台から降りたくて、此処に来たのだ。
「確かに、私は身勝手です…ですが「汝は、この場から去る事を考えているように見える」
私の心を読み取ったかのように長は言葉を遮って更に鋭い瞳で私を見る。
表に出さない彼らの感情が、どこまでも恐ろしく感じた。
「具現者の一番の罪は、汝が"知"を有している事だ。
――不穏分子は、除かねばならない」
何を言っているんだ…具現者である私と、星見である彼らはコインの裏表のような立場で……。
彼らは…彼らは――私から"仮定の未来"の情報が流れるのを恐れているのだろうか…?
「せめて安らかな死後を」
事が急速に運ばれていって、私の頭は未だについていけてない。
なのに――…死への旋律が耳に目障りな程聞こえるきがした。
ごめんなさい。文章構成ぐっしゃ。
ケンタウルス達は言った事が分からないって方へ、一文でご説明。
「彼らは、"未来"の知識を持って行動して来たさんの死を望んでいる」
…ということですかね。傍観者である彼らだからこそ、変えていくさんへの怒りが強い。
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