"Information"
闇に沈んだこの心身を。
どうか、光に晒さないでください。
その瞬間私は。
血を噴出し、骨を砕かれ、肉を引き裂かれて
死んでしまう気がするのです。
就寝時刻をやや過ぎ、寮の監督生の下、大半の生徒が既に床に付いていた。
しかし、そんな中――談話室には暖炉の炎によって一つの影が床に映っている。パチパチと薪が燃える音
しかしない静寂の中、突如出入り口から一人の教師が入ってきた。
「…ドラコ」
「スネイプ先生!……今、パンジーが様子を見に行ってます」
隣に歩み寄ってきたスネイプ教授に対し、先刻から友人のパンジーが戻ってくるのを待っていた少年――。
…ドラコは今の現状を手短に伝えた。彼の説明に教授も納得し、二人はお互いに更に情報交換を始める。
「は…四日前からまことに部屋から出てきていないのか」
「はい…僕達とその前夜に談話室で話した時以来――一度も」
彼がそう言い終えた刹那、女子寮へ伸びる階段から足音が響く…二人が視線を向ければ、既に階段から
パンジーの姿が見え始めている。そしてパンジー自身も彼らの存在に気付き、小走りで駆け寄ってきた。
「……どうだったんだ?」
「…――駄目です。部屋の中に居る事は分かるんですが、どうしても開けてくれなくて…。
アタシが部屋から離れようとしたら、これがドアの隙間からすり抜けて来ただけで……」
そう言って、階段をあがって来て若干息が上がっているのにも関わらず、パンジーは素早く教授に羊皮紙を
渡した…綺麗に四つ折りにされた羊皮紙を、教授が開くのをドラコも横から見詰めている。
開かれた羊皮紙には、書き手の感情が一切読み取れないような綺麗過ぎる文字で
たった一言――「Thank You」と書かれているだけだった。
「……」
唐突に、その場に沈黙が訪れる。
沈黙が流れたのかの理由も分からず、だかその沈黙を破る事も出来ない様な。
「…先生」
そんな空気を破り、最初に発言をしたのはドラコだった。発言によって完全に二人の視線を受ける事になり、
一瞬戸惑った様だが、更に口を開く。
「が一年遅れて編入して来る事になった病気について――教えていただけませんか」
ドラコの言葉に、パンジーと教授は別々の理由で驚いていた。
詮索を好まない教授の性格を知っての上で、何故彼は質問を投げかけたのか。
自らの情報を中々口にしない彼女に、何故そこまで必死になるのか。
「――…いいだろう」
断られる…そう直感していたパンジーを裏切り、教授はさり気なく肘掛け椅子につき、二人が席に着くのを
待った。立ち話になると思っていた二人は、驚きながらも空いている二つの肘掛け椅子に腰を下ろす。
「…詳しい話は我輩とて知らない。だがの病は先天性の物ではなく、
前触れも無く突然発症したと……」
「一体、どんな症状の病気だったのですか?」
聞きづらそうにドラコが聞けば、教授はなお一層厳しい表情を浮かべながらこう答える。
「……聴力が一切失われる」
「!?」
五感の一つである"聴力"に関わる病についてなど、全く知らなかった二人は衝撃を受けていた。
いや、それ以前に魔法使いには、あまり"病への恐怖"への関心度が薄いのが現状である……ホグワーツ
でも、そんな難病持ちの生徒など余り居ないのも要因の一つだが。
「癒者では治せない病気だったのですか…?」
「いや、本来の難聴の病状は癒者が治す事が出来る。
例えそれで治らなくと、特殊な方法で会話や発音を習得するのは可能だ」
此処まで詳しいのは、やはり癒療に関心を持つ事になる魔法薬師である教授の環境なのだろうか。
しかし……そう説明されれば、なおさら気になるのが"彼女の場合"だ。
「――しかし、には何も効かなかった。
その上、特殊な方法での会話も出来ない…そう言う体質になってしまっていた」
かなり二人に話すのを悩んだのだろう…教授は、言った後静かに小さなため息を漏らした。
学校側として分かっているのは此処まで……。
何故、・がその病を脱したのは知らされていない。
その追求を求められては教授としても、正直どうし様も無いのだ。
「…我輩が知っているは此処までだ」
そう言って教授は立ち上がり、素早く談話室の出入り口へと歩みを進める。
そんな教授に正直驚きながらも、二人は生徒としてこれ以上情報を聞き出すのは出来ないと思った。
「――…何かあったら、すぐ言いなさい。
返事をしなくなったり、気配が無くなった場合もだ」
教授はそう言い放ち、談話室から静かに出て行った。
だが、ドラコたちの心には何処かもやもやとした筆舌に尽くしがたい気持ちが、
何時までも、何時までも深い所で疼くばかりだった。
…さんの長いですねー。今回は…病気については結構考えました。
でも、ホグワーツで病気持ち(リーマス除く)ってあんまり見ない気がします。
ちなみに、癒者・癒療は「いしゃ・いりょう」と読んでください。
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