"In a word, victim"
「…死喰い人達は大きな過ちを犯した」
リドルは私に杖を突き付け、なおかつ脅しの言葉を口から紡ぎだしている。
その威圧的なオーラに私は恐怖を感じ、完全に此処から逃げたいと言う感情が失せてしまった。
「彼らは帝王の生存の情報を手にし、実際に帝王を自らの手の内に招く算段を取った。
帝王をこちら側に引き寄せる“帝王の魔力を宿す日記”も使い、全てが完璧の筈だった…」
私は唖然としていた…まさかあの時彼らが呼び出したかったのが、他ならぬヴォルデモート卿であった事
…――そして、その儀式にリドル自身が居た事が。
しかし、何故彼が居る必要があるのだろうか。いや、それ以前に…私はあの場で預言書達意外の本を見た
記憶が無いが……しかし、そんな心中を疑問で一杯にしている私を置いて、
彼はスラスラと――まるでこの時の為に用意していたかの様な――台詞を続ける。
「召喚魔術には対象物の正確な位置の把握されていない限り、こちらに引き寄せる"犠牲"が必要となる。
だから、ルシウス・マルフォイは帝王に託されていたこの"僕"を使った」
そう言い終わると、彼は突き付けていた杖を少し離し、私を見ながら周りを歩き始める。ゆっくりと……杖の
標準を決して外さずに。
「何故召喚は成功しなかったのか……その理由を述べるなら、第一は“本体”にあった。
本体は召喚を行った以前に――人の身体に憑依していたからだ」
彼はとても残念そうに呟きながら、何故か眼はギラギラと怪しく輝いているようにも見える。
つまり、呼び出そうとした前に、ヴォルデモート卿はクィレル先生に憑依していた。
だから失敗したと、でも――。
「そ、それだからと言って、何故私と預言書が召喚されたんです!?辻褄が合わない!」
私は高ぶる怒りの感情を押さえ切れず、とうとう自分からボロを出してしまった。
慌てて気付けば、時既に遅し。
リドルはその綺麗な顔に不似合いな毒々しい笑みを浮かべた後、話を続けた。
「いや、間違ってなどいないさ。標的が失われた召喚魔術はその時点で失敗になる筈だった。
しかし、そこで二つ目の過ちが現れた。それは、召喚魔術の犠牲に――この"僕"を使った事だ」
そう言い切った彼の言葉に、私の混乱は一層増して激しくなった。
何故、彼を使う事が間違いなのだろうか。
…彼は紛れも無くヴォルデモート卿の学生時代の記憶であり、そして本体に変わり闇の帝王として復活をも
考えている筈なのだ。そんな彼が卿を呼び出すのに……これ以上の"犠牲"があるのだろうか。
「…物に"魂のある魔力"が宿ると、それは"注ぎ込まれた以外の能力を持つ事"がある」
その燐とした声が紡ぐ言葉は、私を容赦無く不安の闇に追い込んでいる。
リドルは、手に持つ私の杖を更に強く握り締めては言い放つ。
「そう、例えるなら…『相手を言葉を操って暗示を掛け、自らの意の侭に動かす』…服従の呪文よりも、この
能力を使えば、はるかに強い催眠状態に陥れる事が出来る。
それは言葉を示す"書物"にしか出来ない事……いや、寧ろ僕の有するのは"帝王の魔力"より
その"書物の魔力"の方が圧倒的な割合を誇っていた」
彼の言葉で、徐々に私の心の奥底に眠っていた疑問に光が当てられる。
そうだ…つまり……と言う事は…――。
「目標を失った大河の様な魔力は……あろう事に僕の"書物の魔力"を犠牲として召喚を行った」
手で抱えていた顔を、何時の間にか私の目の前に立っていた彼を見上げると言う形で、瞬時に動かした。
彼は勝者の笑みを浮かべ、私は絶望の色を浮かべ、互いの顔を穴が開く程見詰め合っていた。
信じたくない。でも、全て辻褄が合っている。
召喚魔術の書物は何度も目を通し、"犠牲"の必要性やその魔術がどれ程複雑な物かも分かっていた。
でも…こんな事って。
「君をこの世界に"誤って"召喚したのは――他ならぬ、僕さ」
彼はサラリと、この何ヶ月ずっと明らかにしたかった真実を言ってのけた。
一番知りたくて…一番知りたくなかった……その事を。
――…しかし、それでも何かがおかしい。
「でも、貴方は何故私の名前を知り、"クラウン"と言う者達の守りが私にあると分かるのですか」
渦巻く不安を必死に堪えながら、私は彼に心境以上に強気な口調で発言を浴びせた。
その途端、視界がギュッと誰かに圧縮された様に歪んだが、直ぐそれは治まった。
「簡単さ」
彼が一言そう言うと、今度は背筋から突如襲って来た吐き気に、思わず口に手をやって堪える。
それが余りにきつくて、体が小刻みに震え始めているのが分かった。
何なの、一体…?何でリドルの話を聞けば聞く程、こんなに体に異変が――。
私が吐き気や、防寒呪文が解けた為に襲って来た寒気に耐えていると、彼が私の前にしゃがみ込んだ。
急な事に、一瞬全ての感覚が麻痺した気がした……朱の瞳を見詰めている私に、彼は言った。
「教えてくれたのさ。クラウン――君の言う"預言書"がね」
決して即興ではなく、かなり前から決めていた真実です。
辻褄あわせが難しい。補うべき点が、まだワンサカと。
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