"Surprise attack"













先生にわざわざ寮の入り口まで送ってもらい、私は最後にお礼を言って談話室へと足を踏み入れた。

入った瞬間、枯れ木がざわめく様な生徒達の声が一瞬途絶え、そして直ぐにそれは元に戻った。



「…!ちょっと」



小さく囁く声の方を見れば、こちらに背を向けている肘掛け椅子から、ドラコが私を手招きしている。


何なのだろうかとそっと歩いて近付けば、そこにビンセントとグレゴリー、そして珍しくパンジーが座っていた

促される侭にそのグループの近くにおいてある肘掛け椅子に座り込むと、ドラコが更に小声で言ってきた。



「何処に行ってたんだ、只でさえ今時あの事件の所為で教師達がピリピリしているのに」

「え、えぇ、ごめんなさい。気をつけます……所で、何か用事ですか?」



そう、単刀直入に私が聞くと、ドラコは一瞬戸惑って言葉を切った。

その間に、パンジーがドラコが聞きたかったをさらりと口にした。



「ドラコは、の誕生日が知りたいのよ!」

「…え、あ、そうなのっ?」



突然の話題に、聞こうとしていたドラコ以上に私は戸惑い、そして驚いた…えっ、何故誕生日よ?

そんなに重要か、誕生日――と、何故か黙った事によって、ドラコ達の視線が完全に私へと向かれていた。



「どうしたんだ?」

「あ、あぁ、ごめんなさい!……六月六日です」



誕生日かぁ…リアル世界だと、私もう誕生日迎えたかなぁ。

精神年齢が十六の私だから…やだわ、もう十七歳……あぁ、考えたくもない。

私が余計な思考にどっぷりとつかり、音が一瞬脳内からシャットダウンされたが、ドラコの声で驚いた。



「…!本当に、六月六日なのか?!」



他の三人も私と同じで、驚愕の声を上げるドラコ以上に驚いているようだった。


しかし、当の本人も自分が辺りに居る私達だけでなく談話室にいる全ての生徒の視線を集めている事に

気付き、青白い肌を朱に染めて、一度大きく咳払いをした。


「いや……ちょっと…」

「?本当にどうしたんですか、ドラコ?」



私が不思議そうにそう聞くと、何故かその瞬間に他の三人には頭に豆電球が浮かび、その内ビンセントが

小声で教えてくれた。



「…ドラコの誕生日は、の一つ前の六月五日なんだ」

「そうなんですか……って、えぇっ!」



先刻のドラコよりは控えめだが、私も思わず驚愕の声をあげ、それに気付くと顔が紅潮したのが分かった。

え、マジ。そんな奇跡アリか?……内心、自らの本性爆発トークが炸裂しているが、話は進む。



「珍しいのね。中々一日違いの人って居ないものよ…ね、グレゴリー?」

「ん…あぁ……そうだな」



パンジーの言葉に、何処か殺気めいたものが見え隠れしているのに対し、話題を振られたグレゴリーは

そのオーラに触れないように必死だ…そうか、パンジーってドラコが好きなんだっけ…でも、絶対恋愛対象

じゃないから、落ち着いてね。



「えっと、じゃあ…とりあえずメモさせてね!」



殺気めいたパンジーのオーラから逃げる為にも、私は膝の上に置いた鞄を開けて、スケジュール帳と筆記

用具を取り出す――…しかし、ある事に気が付いて、その場で固まった。



無い。私の、愛しい愛しい(秘密事記入済みの)キャンパスノートが。




…?」

「ごめんなさい!ちょっと、図書室に忘れ物をしたので取ってきます!」



暖炉の上にある掛け時計を見詰めれば……後少しで就寝時間になりそうだが、猛スピードを出せば何とか

なりそうだ。私が急に椅子から立ち上がり談話室の出入り口に走っていくのが速かった所為か、誰も止める

者は居なかった――冷気が漂う廊下を、私は短距離走の勢いで図書室へと向かう。



吐く息が白く、歩幅によって鞄の中の道具がカタンカタンと音を立てた。

急ごうとすればするほど、体は言う事をきかなくなって、私は一度廊下の曲がり角で休憩していた。

スケールがとにかく大きいホグワーツを走り抜けるのは結構至難の業で……体に悪い。



「ハァッ……い、行くか」



そう言ってまだ荒息治まらぬ体に鞭を打ち、走ろうとした――その時。




ドンッ




後ろから、誰かに押された様な感覚が走り、私はその場につんのめって倒れこんだ。

突然の衝撃に、準備が出来ていなかった私は思いっ切り体を床にぶつけて、全身が一気に麻痺した。


「いっ…」


小さく声を漏らして全身走った痛みを和らげようとした物の……何故か、治まらない。

いや、明らかに変だ。一瞬の痛みならまだしも、外傷的痛みと言うより寧ろ神経的な痛みに変わりつつある


「い、ったぃ…」


自分の体の異常に気付き、どうにかして立ち上がろうとするが――動こうとした刹那、言いようのない先刻

より数段威力が増した激しい痛みが走る。


その痛みが、私には致命的だった。何故だ…どうして……?



考えれば考える程、私は痛みにのた打ち回りながら、無意識の世界に引き摺り込まれた。







次から"山場二"に入ります。(なので、黒背景宣言)
さんの誕生日は、前々から決めてありましたが…。
まさかドラコと誕生日近いとは(なら変えろよ)


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