"Eyes of doubt"













人には、見えない"モノ"があるから。


いつも背後から近付かれて――餌食になる。










一月の中旬――誰も居ない図書室のテーブルに、私は大量の荷物を広げて陣取っていた。

文字が羅列されている文章が……段々記号にしか見えなくなってきている。

好きな教科である呪文学でも、やはりこんなにレベルが高いと頭が痛くなってしまう。



「…一番重宝してる呪文学だけど……定理とかそんなの出てくるとキツイ…」


そんなグチを言ってから、私は今読んでいた本に付箋をして、パタリと閉じた。呪文学と言っても、とにかく

マニア的な呪文しか載っていない本なので、そんなに詳しく見る必要など無いが。

……何だろうか、こう"知識に飢えている"と言った方がいいだろうか?



「行くか…教務室」



盛大に広げた荷物達を鞄に押し込んだり、本棚に戻してから私は微かに頭痛がする頭を両手で軽く押して

痛みの緩和を計った。少し頭痛が和らぐと、目の周りに集まっている眠気オーラも少し居なくなって、行動

しやすくなった。


私は、右手に鞄を持ち、左手には先刻の"マニア呪文記載本"を持って図書室を静かに後にした。




余りにも静まり返った廊下に、私は一瞬の恐怖を覚えてしまった。

勿論、襲撃事件の事で殆どの生徒が夕食後は自分の寮に留まっている所為なのだが。

…幽霊とか、そう言う物の存在を小さい頃から染み込まされた私にとって夜は"怖い"のだ。


カツンカツンと、響く足音は私の分しかない。

窓から入って来る隙間風や、夜の散歩に出掛けている梟達の鳴き声が今は何だか心強かった。







〜§〜








「…失礼します」



教務室の中を覗き込んだ私に誰も気づく先生は居なかった。いや、それ以前に殆どの先生が"こんな時間

に生徒が来る"とは思っていないのだ。


事件の所為で教務室に居る先生の量が断然増えており、その上引っ切り無しに何か話している。

私は、キョコキョロと見回してから――出来れば会いたくない――フリットウィック先生を見つけて中に入り、

ドアを静かに閉めて先生が話しているグループへと近付く。


フリットウィック先生は、副校長、飛行訓練教師の二人とヒソヒソと会話をしていた。

三人の顔には余り変化が無いが――とても真剣な話をしているんだろう。



「ミス・!…こんな時間に何用です」



マクゴナガル先生が「何と非常識な!」を言い換えた様に話しかけてきた。

その声に気づき、他の二人のみならず、教務室にいる全ての教師が私が居る事に驚いた様だ。



「すみません。どうしてもフリットウィック先生にお聞きしたい事がありまして…」

「おや!ワタシにですか!……しかし就寝時間がもう近いですよ!明日の授業の際に聞きましょう」



そう言ってフリットウィック先生は私の質問を聞こうともせずに教師二人との会話を再開してしまった。

――…ちくしょう。このマイクロマンめ。人の話は聞こうよ!

私は少し怒りながらも、三人から離れようとした――その時。




「あ、ミス・!一人で寮へ帰るのは危険ですよ!私が送りましょう!」



聞きたくも無い口調に、後ろから急激に迫る嫌な予感オーラを覚えた私はクルリとそちらに振り返った。

…今学期に入って、かなり私が存在自体を拒絶しているロックハートが、(自称)チャーミングスマイルをして

私の前に立っていた……あぁ、逃げてしまいたい。



「いえ、一人で大丈夫です…ありがとう御座います」

「一人ならなお更心配です!さぁ、意地など張らず遠慮せずに!」



いや、どんな意地を張っても貴方からのその申し出は誰だって遠慮します。

思わず後ずさりしたものの、何故か私の腕を既に掴んでいるヤロウに私はかなりの怒りを覚えた。


しかし――。




グィッ


「ギルデロイ、は我輩の寮生だ――我輩が送ろう」



突然引っ張られ、私は思わずよろめいたが、何とか体制を立て直して自分の後ろに居る人物を見る。

――…そこには、他ならぬ我が寮の寮監様が立っていらっしゃいました。


その一言とスネイプ先生から発せられる何か(多分これが有名な黒オーラだとおもった)に、ロックハートも

がっちり掴んでいた私の腕をサッと離して冷や汗を浮かべる笑顔で言った。



「そ、そうですね…いいでしょう」

「……では、ミス・。ついて来なさい」

「え、あ…ハイ!」



先にスタスタと歩いてドアノブに手を掛けているスネイプ先生に私は急いで後を追った。







〜§〜









 沈黙の中、先程通った道を二人分の足跡を響かせて通っていく。前にはスネイプ先生が、そしてその後を

必死になりながら私が付いて行く。意外と先生の歩幅は大きいし、歩調も後者の私の配慮など何もされて

いないみたいだ。…と言うより小さくなっていなければ、もっと先生の後を早く付いて行けるんだろうが。



「――

「……は、はい」



突如止まった先生に対し、私もその場に止まっていると先生は前を向いたまま私の名前を呼んだ。

…何で先生は敬語の使い方があからさまに違うのか気になったが、先生が前を向いたまま聞いてきた。



「…ハロウィーンの夜……一体何処に居たのだ」

「えっ」



その一言は、私の予想範囲を軽々と超えた先にあった――まさか今になってハロウィンの事について質問

されるとは思っても見なかった……そして、私は一瞬考えてから先生の真意を探る事にした。




「何故私にそんな事を聞かれるのですか?スネイプ先生」


「…ポッター達の様に大広間にいなかったであろう。

 ――…まさか、絶命日パーティーなどには行っていないであろうな?」



鋭い所を突いて来る先生に、私は緊迫感を覚えた…"予防線"が先生にまで薄くなっているのだろうか?

いや、それは無いはずだ。先生はあくまで"自分の寮生徒の行動"を知りたがっているだけだろう。

しかし、私には真実を語らなくてもいいアリバイが幾つもあった。



「いいえ、私は体調が悪くなってずっと寮に居ました」



…そう言い切っても、先生に怪しまれない理由があった。ドラコにも「体調が悪くてパーティーには出れない」

と言っておいたし、寮の出入りについては肖像画の記憶をいじっておいたので私の事に付いては何も聞き

出せないはずだ。


私の一言に、先生は絶対何か言ってくると思っていたが――それは違った。



「…ならいい」



そう言うと、先生はスタスタと再び歩き出したので、身を硬くしていた私は内心ホッとしていた。

すぐ先生の後に続こうとしたが、私は窓の外の景色に見入ってしまった。


――…月光が照らす雪積る森の木々の輝きと、その光の中静かに降り立つ雪に見せられていた。



「…早くしたまえ」

「はい。すみません!」



私は先生の少し冷たい一言で我に返り、すぐさま小走りで後を追った。












少し夢っぽい展開。いいね、ツーショット。
結構突っ走ってる方ですが…遅いですかね?



back top next