"It is sure to understand."












泣き腫らした目と、自分の精神状態を落ち着かせる為、結局昼頃まで私は部屋に居続けていた。

涙を流した後は、表現しにくいけど――少し気分が楽になった気がする。

しかし、泣き過ぎた私はツンッと来る頭痛に襲われながらも、顔を洗って気分転換を図る。



「あ〜あ、こんなに泣いちゃって……大丈夫?」


…と独り言を、まだ酷い顔をしている自分に話し掛ける。

微かに笑顔を浮かべてみるけど、その表情は――何となくぎこちなかった。


三人からもらったプレゼントをサイドテーブルに綺麗に置いてから、私は服を着替える。

窓をチラリと見ると、魔法で今は晴れた青空を映し出している。


服を着替え終わり、ようやく自室のドアの前に立ってから…――数秒その場で静止する。

涙で流れたと思った感情が、急に意識の中にチラチラと見え隠れしている。


私はパンッと両手で頬を軽く叩いて、気合を入れた。



「よしっ……行こう」


キィーっと、音を立てて開けたドアから私は階段を上って行った。

カンカンと、軽快なリズムを刻みながら、私の足は思いとは裏腹にズンズン進んでいく。






しかし、意気込んで談話室へ向かった私だったが、そこには誰一人いなかった。

魔法で決して絶える事の無い炎が、パチパチと音を立てて静まり返っている談話室に響いた。



「…さすがに、待ってる筈無いよね」


そんな小言を言いながら、私は冷えた指先を暖めようと暖炉へと近付く――すると、暖炉の近くに置かれて

いたテーブルの羊皮紙が私の眼前に移動し、書いてあったインクが輝き始めた。



"校庭にいる"



簡潔すぎて、でもしっかり用件を伝えている一文で私はこの伝言が誰からの物か分かった――ドラコだ。

校庭?結構寒がりなドラコがすすんで外に出るとは考えにくい…と言う事は、多分二人の付き添いだろう。

私が読み終わったタイミングを見計らったように、メモはフワフワと移動してテーブルの上に戻った。

……初めてあんな魔法を見た気がする。ドラコってきっと私よりいっぱい呪文を知ってるんだろうな。


とりあえず外へ出る為にもう一度階段を使って自分の部屋へと戻る……外に出るとなれば、さすがにもっと

防寒具を着て備えなければならない。ガサガサと、ベッドの隣に置いてある小さな引き出しを開けて、外に

出る為の防寒具を取り出す。スリザリンのマークが入ったマフラーが私の手に触れるが――私はその隣に

ある何の変哲も無い編みマフラーを手にする。


…私と、記憶の中の現代を繋ぐ――おばあちゃんが編んでくれたマフラー。

薄そうだが、何重か巻けば普通の物に劣らない保温効果がある。その上、どんな服装にも合ってしまう。

首に緩く巻くと…毛糸のいい香りが微かにした。


そして――私は、今日もらったドラコからの手袋を優しく掴んで飛び出していった。







〜§〜









雪が積っているが、それとは裏腹に空には雲一つない晴れ間が広がっていた……その日差しの暖かさを、

顔の皮膚で感じ取って廊下を歩いている私に、近付いてきた中庭から誰かの声が聞こえた。



「…ドラコは、やらないのか?」

「だから、やらないと言ってるだろう!…本当に、幼稚な奴等だ」



廊下の曲がり角からひょっこり向こう側を覗けば――。

そこには、雪遊びに夢中になる二人と、それを飽きれながら見詰めるドラコの姿があった。二人は、身長や

図体の割にはまだまだ子供っぽい一面をチラつかせているが、ドラコはあまり"子供らしさ"を見せたことがなかった。


彼等を見て一瞬思い出す――いつか、バレるのだ――しかし、私の体は心と反対の行動を取ってしまう。




「ドラコーっ、ビンセントー、グレゴリー!」



大きく手を振りながら、冷たいの床から銀世界へと足を踏み出す私…なんで、こんな事が出来るんだろう。

突然現れた私に三人は驚くが、何故か言葉が止め処なくあふれてくる。



「ごめんなさいっ、昨日遅くまで本を読んでいた所為でこんな時間まで寝てしまっていて…

 あ、あとプレゼントありがとう!どれも素敵なプレゼントでした!」



言っている事は多少の嘘が混じっているが…私の笑顔は何故か自然と浮かんだ。

ベンチに積っている雪をどけて、杖で防水呪文をかけた後に私はそこにゆっくり腰掛けた。


私のキビキビさに驚き続けていた三人だが、雪遊びをしていた二人はぎこちなく雪だるま作りを再開した。

ハァーッと、大きく息を吐き出してから一気に吸うと自分を作っている小さな存在が落ち着く気がした。




「…

「ん?…なんですか?」


私が座っているベンチの近くまで来たドラコが、急に真剣な表情と声で私に話しかけてきた。

それでも、私の笑顔は何故か崩れたりしない。






「――…、泣いたんじゃないか?」




…でも、その笑顔は簡単に崩れた。

急に表情が変化するのを見られたくなくて、私はとっさに俯いて彼の発言を待つ。




「なぁ、。僕だって、君の事何も知らないわけじゃない。

 仕草とか、癖、話し方に顔色……は、僕が何も知らないと思ってるだろう?」



グサリと、心の隅で聞くからに痛そうな音が響き渡った気がした……顔が、上げられない。




「僕は、何時までもとの距離が縮まない気がして…少し怖いんだ。

 一瞬近付いたと思えば――そこで君が見えない程の大きな壁が立ちはだかるんだ」



降り積もった雪の上をゆっくり移動しながら、ドラコは話を続ける。

…ドラコは、気づいていたんだ。私との間の"具現"の壁に。


――…その正体を知らないだけで。








「でも…僕は、中々近づけない事で――を責めたりしない」






急に柔らかくなったドラコの口調に、思わず私は顔を上げて彼を見詰めた。

そこには、確かに切なそうなのだが…どこか優しさも感じられそうな表情を浮かべている彼がいた。



「相手を知るのに一生懸命になって、その相手を傷つける事は――絶対やっちゃだめなんだ。

 それなら……僕は、の前にある壁が薄くなるまで待つさ」



逆光で目を瞬かせている私でも――彼が今まで見た事のない優しい笑みを浮かべていたのを目撃した。

私がじっと見詰めていると、急に思いついた様に彼は近付いてきて、腕を引っ張った。



「おーぃ、二人とも!雪合戦するぞ!」

「え、あ!ド、ドラコ!?」



さっきまで雪遊びになど関心を示さなかった彼に、

ビンセントーとグレゴリーは驚きの表情を浮かべていた。



彼は少し強引で、掴まれている手首が痛むけど――その痛みが、今一番嬉しかった。







宣言:ドラコ夢には絶対走りません。
謝罪:聖夜といっておきながら、夜になりませんでした。

多分、ドラコには"具現の力"は極限まで薄くなってしまったんだと思います。

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