"Christmas eve"















記憶を辿って、時空を遡って…――。


あの時に、帰ってもいいですか。











クリスマス休暇に突入したスリザリンの談話室は、異様に静かだった。

そんな中、暖炉から聞こえるパチパチと言う音に耳を傾けていた私に、ドラコが言った。



「…今年のクリスマス休暇は、本当に残った生徒が少ないんだ」



そう言って、ドラコは紅茶を一口啜ってから後ろにいるクラッブとゴイルに席を勧めた。


ドラコの言うとおり、私達四人と監督生含める他生徒を合わせても極小数しか残らなかったのだ。

……秘密の部屋の継承者について、やはり純潔主義者のスリザリン生徒も、安全を確保したいらしい。



は、確か孤児院にいたんだよな?…どう言う所なんだ?」



会話に少しの間が空いた後、ドラコがそんな質問を私にしてきた。

正直、そんな質問が来るとは夢にも思っていなかったので、私は内心驚きながらも、何とか答える。



「そうですね…やはり、家事はしっかりやっていましたよ。

自分の事は自分でしっかりやらなければならなかったですし」


「そうなのか……なら、クリスマスはやはり此処に残って良かったな!」



笑顔でドラコに言われて、私の心に多少ではあるが罪悪感が湧き上がった。


――…これで、何回嘘を付いただろう。


でも、付かなければ……私は、彼の父親に殺される事になる。

ズンっと、幾らでも重くなりそうな感情を押し殺して、私は三人と会話を続けた。







〜§〜









クリスマスが――やって来た。

朝、冷え込んだその日……私は目を開けた瞬間に思い出した事で、身が沈む思いだった。





――…私は、クリスマスの日にこの世界に来たのだ。




望んでなど、いなかったのに。




家族へのプレゼントを机の下に隠したままだ。食べ物ではないから、大丈夫だろうけど。

高かったんだよねぇ、姉ちゃんへのマニキュア……今、どうしてるかな?


天井を見詰める目に、微かだが熱がこもり始める。それを腕で払いのけた。



…なんでよ。何で今日はこんなに涙腺が緩いんだろう。



そう思いながら、私は体を起こしてベッドから降りようとしたが……足に妙な感覚が走った。

驚いて、急いで足を引っ込めてからそこを見ると…綺麗に包装されたプレゼントが三つ置いてあった。


三つ…三人……その言葉でピンと来た私は、比較的小さめの包みを手にしてゆっくりと開いた。

手の平にポンと出てきたそれに、心の底から驚きながら添えられたカードを読む。




「メリークリスマス  君に常なる幸運を  ドラコ」



ドラコから送られてきたプレゼントであるマフラーを見詰めながら、カードをそっとベッドの上に置く。


微かに震える手で残りの二つの包み紙を急いで開けると、

中には綺麗な羽ペンと珍しいマグル学の本が入っていた。



……なんて言ったら良いのか。わからないや。





「…うッ…な、何で、そんなにっ!……」



――…私なんかに優しくするの。








「……う…うわぁぁぁ……っ!




堪えていた涙が、ツゥーっと頬に線を描いて、顎の先から雫を作って落ちて行く。

絶えられない感情に、大声を出して悶え苦しむ。

息が荒くなる…なんで、こんなに嬉しいのに――悲しいのだろう。



私は、感情の波に流されながら彼等の暖かさへの感謝と、いつか彼等と離れる事になる悲しみに暮れて

泣いた…泣き続けた……談話室で私を待っているかもしれない彼等の事など全く気にせず。




全身全霊を、大粒の涙に変えて…。






泣く事のなかったが、涙を落としました。

を苦しめるのは、三つ。
本達が与える"未来を変える代償"。自分が抱く"先が見えない不安"。
そして……人から受ける"暖かさを感じる心(そして、その後の罪悪感)"

暗いね。ハッピー(幸せ)クリスマスなのに。

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