"In the snow."




















どこからか分からない光が、雪降り積もる天文学の屋根を照らしていた。

――勿論、防寒呪文を念入りに施した私も含めて。


雪の夜は、雪自身が辺りの音を吸収し、少し響きは悪いが歌を密かに口ずさむには最適だった。

静寂しかない此処だが、今私の頭の中には電子機器で作られた音楽で一杯だった。


MDプレーヤーなんて、こっちに来てこの方使ってもいなかった。

いや、何度か聞こうとは思ったがバッテリーの関係で、あまり使う気がしなかったからだ。

…本達が"電子機器には、絶対魔法を施さない方がいい"と断言された所為もあるが。




「いいなぁ…暗い気持ちなんて全部流れちゃいそう」



音楽の波に飲まれながら、その中で思った感情を同じテンポでアーティスト達と歌う。


……そうする事によって、感情を穏やかに保つ事ができそうだから。


波の中に、記憶が断片的に現れては――やがて、消えていく。


まるで、手の平に舞い降りた粉雪の様に…――。





「…綺麗な、歌だね」



穏やかな曲に差し掛かった直後。私の耳に、誰かの声が届き――瞬時に振り返った。


雪夜を過ごすのには、余りにも寒そうな夏の制服を着た、私より背の高い黒髪の青年。

私を見詰めるその紅の瞳は――綺麗なワインレッド。

その顔には、穏やかそうなオーラをかもし出しながらも、何処か不安にさせる微笑を浮かべている。



――…も、もしかして。



突如現れた彼(大体予想はつくが、あえて名前を確定させたくないのだ)に対し、

私はすぐさま音楽をストップさせずに急いでイヤホンを外し、ポケットに押し込んだ。


…相手が誰だろうとも、まだ世に生まれてもいない電子製品を見せるのは悪い。



「ど、どちらさまですか?」


「…お互いに、此処にいる事がバレたら危ないんじゃないのかい?

 名前を聞くのは、控えた方が身の為だよ」


笑顔の割に、しっかりとした説明をして私に歩み寄ってくる赤目さん。

…あれっ、何で彼は実体化してるんだろう?無理して私に会う必要があるんだろうか?


彼が近付いて来るのを受け、私は雪で足元が悪い中、急いで立ち上がって体制を整えた。

戦闘モードに何時もつれ込むか分からない恐怖が、私の身を固くした。



「…何時からいらっしゃったんですか?」

「う〜ん、どれ位前なのか、僕にも分からないよ」



……逃げやがったな、コイツ。


ドンドン彼との距離が縮む中、突如。三波の言葉が頭の中に過ぎる。




え〜、もし"あの人"に目ぇ付けられたらアウトだねー。

 冷たくしても逆に怪しまれるし…、相手すれば後々辛い思いするし〜。

う〜ん、諸刃のヤイバって奴?





待て待て待って待って待って、待ってくれ!!

つまりアレか?時既に遅しっ!?

生き地獄を味わうのか?!…この赤目青年に追っ掛けられる地獄をか!?


頭の中で、既に地獄絵図(予定)が繰り広げられる中、

とにかくこの場から逃げようと、脳内で必死に"逃亡シナリオ"を構成する。



「そうですか、じゃあ風邪に気をつけてくださいね――アディオスっ!」


ピョン、っと雪積る屋根から飛び降り、少し下にあるバルコニーに着地してから、

私は中の下へと降る階段を猛スピードで降りて行った……。







〜§〜









バタンッ

…自室に逃げ帰ってきた私は、何時も以上に疲れきっていた。

なんか……このパターンが意外と多い気がして、少し頭が痛くなった。


しかし――。



「あ、あっぶねぇっっっ!」


思わず力を込めて独り言を口に出しながらも、コップに水を注いでゴクリと飲み干す。

…あまり話したくもなかったから、ついうっかり名前も確認せずに逃げてしまった。

どう考えても赤目さん=トム・リドルである事は分かったけど…少し惜しい事を気がする。



「…ねぇ、彼って私の事分かってるのかな……バレてると色々と大変なんだけど…」


――それは、我らには分からない事だ。


なんとなく、何時もよりツンッとした本達の言葉に、私は少しムカついた。

如何したんだろうか。そんなに無理せず、出来るだけ穏やかに人生を生きてるんだけどなぁ。



「まぁ、貴方達だって万能じゃないよね…ごめんなさい。何時もお疲れ様」


そう言って、私はパジャマ姿でベッドに腰掛けて魔法の掛かった窓を見詰めた。

深夜に雪が降る、何処か見知らぬ地の風景だったが、思った。







――…もうすぐ、クリスマスだ。




出しましたよ。リドルさん(微妙でごめんなさい)
ようやくクリスマス突入します(遅い!)
…雪の中でさんが歌ってたのは、多分レミオ○メンの粉雪で。



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