"Momentary defense"



















私の体の中に、何かが住み着いた……。

散々内側から痛めつけられて…じわじわと、表に浮き出てくる。


それは、やっぱりアイツ等なんだろうか。



見えない青あざが、やがて――私を食い尽くす。








!……さっき、面白い話を聞いたんだ!」



保健室生活から抜け出して数週間経ったある夕食前…ドラコが私に話し掛けてきた。マグル学の上等書物

を読んでいた私は、栞を挟んで閉じ、彼に向き返った。

彼の言い方によれば、かなり重大な事らしいが――なんだろうか。



「…どうしたんですか?」

「なんでも、今日の夕食後に"決闘クラブ"が開かれるらしい!」



彼はとても楽しそうに私に言ってきたが、当の私は……顔から血の気が引いた。

とうとう、そこまで来てしまったのか…私は何と答えたらいいか分からず、口をつぐんでいた。



「……どうした、?具合でも、又悪いのか?」

「いっいえ……あの、ドラコ。先に大広間に行っててくれませんか…?」



急にテンションや表情が変わった私に、ドラコは最初にびっくりした様子だったがそれでもそんな私の願いを

聞いてくれて、談話室から静かに廊下へ出て行った。


夕食が近いと言う事で、今談話室には私以外誰も居なくなっていた。元から穏やかな時を好むスリザリン生

の談話室だからこそ、この静寂がなんとも寂しい。




「…どうしよう」



独り言を口にしてみるけれど、心臓の鼓動は早くなるばかりだ。

……ドビーとの出来事は、思い出したくもないし、考えたくない。



"ご主人様は、今でも貴方様を探していらっしゃるのです……!"



頭の中に、朧の様な、でもハッキリした声が響いて――。

もし、此処にいる事が闇陣営にバレたら…私が特殊な人間である事が知られたら…。


サーッと冷え込んで来た談話室から、私は結局一歩も動けずに夕食の時間を過ごした。







〜§〜









カサカサッ…コソコソッ……



夕食終了後、寮に戻る生徒がまばらに居る廊下で、私は何故か怪しく移動していた……逆に目立って居る

可能性もあるが、それ程私は緊張している。


大広間に近づき、私は開いたドアの隙間から中の様子をチョロチョロと伺っては深くため息をついていた…

本当は行きたくないが、何となく物語の行方も気になる。私が居る事によって、本筋が此方でも曲がって

いないか心配なのだ。


――…しかし、こんな時に運命の悪戯アリ。




「…君!どうしたんだい、そんなにコソコソして!



…ギギッと首を後ろに向けてみれば……そこには決闘クラブの講師ロックハートが。

その目は何かを察した様子で、何故か妙にキラキラしている。


思わず表情が強張り、その場に静止――ヤベェ?




「…い、いやあのコレは……」

「――…私の講習を見に来たのですね!」



ガシッ



ロックハートの手が硬直している私ににゅっと伸びてきて、しっかり掴むと大広間に引きずり始める。



「……さぁ、そんなに照れずにお入りなさい!」

「え、あのっ!…って言うか強引ですよアンタ!?」



私の叫びも虚しく、ロックハートは大広間に派手に登場し、

その彼にひ引き摺られている私は、妙に浮いている様子で、恥ずかしかった。




「…!どうしてあんな奴と!?」



何とかロックハートから逃げてきた私を、ドラコが驚いた表情で迎えた。

そりゃそうでしょう、夕食にも来なかった私が彼と現れたんだから。


「大広間の前を通ったら…引き摺り込まれて……」


まるで相手が蟻地獄の様な表現だが、ロックハートならその表現は正しい気がした。

何故かそれで納得してくれたドラコは、話が進んでいた台の上に目を向けた。

…惜しい事に、目を向けた瞬間にはロックハートはスネイプ先生からの呪文を受けた後だった。


――…吹っ飛ばされるところ、ちょっと見たかった。




「で、では、二人組みになって呪文の掛け合いをしなさい!」



徐々に組が決まっていく中、私はすかさず大広間の端へと足を進めていた…私の魔法は制御しづらい為、

相手に怪我をさせる可能性がある事を否定できないのだ。


準備をし始める生徒達を掻い潜って歩いていた――その時。




「…ねぇ、私と組んでくれない?」



ざわざわしている中、その声はハッキリと私の耳に届いた。

…振り向いてみればそこには綺麗な黒の長髪をポニーテールにしている東洋系の女の子が居た。

私よりも結構背が高い……ネクタイの色からしてレイブンクローの生徒らしい。



「……え、でも私魔法苦手ですし…」

「大丈夫よ!さぁ、あっちに行きましょう!」


何だろう、半ば強引に腕をぐぃぐぃ引っ張られて結局再び大広間中央へ逆戻り。

取りあえず持ってきていた杖を取り出し、構えて号令を待つ。



「では、みなさん!1、2の――」



ロックハートの掛け声と共に、生徒達の呪文が杖の先から打ち出された。

何十にも重なって彼女の呪文は聞こえなかったが、真っ直ぐに私の元へと向かっている。


《……こりゃ、私は素直に呪文の餌食になった方がいいかなぁ》


口パクで呪文を唱えた振りをして、何となく衝撃に備えて身を硬くする。

そう言えば、此処に来てから呪文なんて喰らった事無い事を、今になって思い出す。


後数ミリ――その瞬間、おかしな事が起きた。




パシィン!





――…呪文が、微かに音を立てて跳ね返った。


「えっ…」



それは、まるで盾の呪文を使った様に綺麗に彼女の足元に跳ね返った。

盾の呪文は、微かだが銀色の薄透明の壁が見えるのだが……今のはそれすら見えなかった。



どう言う事だ?



多くの生徒が呪文の餌食となり、その収集に当たるロックハートが私たちの所にも回ってきた。


「此処の二人は……おや?無事ですか!」

「え、えぇ――大丈夫です」


怪我していない事を確認すると、ロックハートはさっさと次の生徒の所へと移動していった。

すると、彼女が私に走り寄って来て困惑した声で聞いて来た。


「あ、あなた。盾の呪文が出来るなんてすごいわ!」

「いえ、私はまだ練習中の呪文を試しただけで……じゃあ失礼します!」


猛スピードで、生徒達の群れから抜け出し、大広間から飛び出して寮へ走っていった。







〜§〜









バタンッ


ノンストップで走りきって、自室の扉を閉めると――その場にへなへなと座り込んだ。

彼女は、多分気が付いてない…事を祈る事しか出来ない私が、此処にいる。


呪文を跳ね返した…と言う事はやっぱり何かと機能性抜群の本達の配慮だろうか?

本達には、多分ちゃんと盾の呪文も載ってるだろうけど……そんな過保護は要らないのに。



「…もしかして、死の呪文も跳ね返せる?」


――我等の力が耐えられれば。



相変わらずの本達の答えを聞いて、私も何故かため息が出た。

非現実的なこの世界で、更にそこから新たな非現実な事をすれば、やはり本達にも負担がかかる筈だろう

……私も、頼らずに盾の呪文を習得せねば。



「あ〜あ、ハリーとドラコの決闘少し見たかったな…チッ


荒息を抑えながら、心地よくかいた額の汗を手で拭って、私は弱弱しく笑った。





貴方の、一票を→ワンドリサァチ

さん。ようやく一通りのイベント終了……次はアレです。
(あれって言うのはね〜。考えといてくださいなw)
ちなみに、出てきた東洋人さんは……あの方です。



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