"Encounter is latter"



















ズルッズルッ




――…何かが大きな物を引き摺っている様な音が聞こえ、私はカチンとその場で固まった。

手を掛けていたドアからそろりそろりと後ろに後退し、私は瞬時に開いている個室トイレに入り込んだ。


……どうしよう。あの音と、今夜の出来事から推測するなら、明らかに外に大蛇バジリスクがいる!


もし、此処に入って来たら――今の私は無防備だ。杖はおろか、戦うのには明らかに不向きなパジャマを

着ている!その上最終手段の鏡も無い……。




ズルッズルッ…ズルッ




音が、近付いてくる――身を固くして、恐怖の余り変な行動をしない様に錯覚させる。



《廊下にいるのは、フィルチさん!

きっと寝呆けて大広間の巨大テーブルクロスを引き摺って通っているだけ!

……足音が全くしないのは思い違い、ね?




本当に思い違いなら一番幸せだなぁと、自分に暗示を掛けながら身を縮めて時を待つ。










……しかし、音は一番大きくなってからは次第に小さくなり、最後には再び静寂が訪れた。

一歩一歩、慎重に個室から出ると、もう一度耳をすませてから安堵の息を漏らした。


何故バジリスクがパイプを使わずに廊下を移動していたかの疑問はさて置き、ひとつ此れではっきりした。




大体、夢主ってさぁ〜動物の声が聞こえたりするんだよね。

まぁ何かと便利だからよさそうだけどー。




久々に思い出した腐れ三波の熱い語りを脳内で分析するなら――結果的には"私は動物達の声は決して

聞こえない"と言うのが分かった。話せなくても、せめてリスニングが出来れば……とは思ったけど、やはり

そんないい事尽くしとは行かないみたいだ。


キィーっと軋むドアを引いて、私はそろりそろりと廊下に歩み出た。廊下には、まるで何事も無かったかの

様な静まりが戻っていた…事件が起きる階段は、保健室を挟んで向こう側なので、バジリスクが戻ってくる

可能性は多分ないだろう。


それでもやはり足音に気を付けながら保健室へと早足で戻るが……。







ドンッ



「いたっ」



角を曲がろうとした瞬間に、何かとぶつかって後ろに大いにバランスを崩して倒れそうになった。

なんとか倒れずに済んだので、瞬時に閉じた目を開けてぶつかった相手を見たが……言葉が出なかった。


チカチカと点滅する無数の光が何かの形を表していた。

――私より背が低く、大きな耳が特徴的な“何か”が、ビクビクとした小さな声で言った。




「……あ、あの時のっ、マグルがどうして此処にッ!



何の事かと思い、一瞬完璧にフリーズしたが――急に体が動いた。

右腕がグッと“何か”の前に突き出され、その瞬間に光がサッと消え失せて、姿がはっきりした。



――…ドビーだ。マルフォイ家のしもべ妖精の…あの、ドビーである。

混乱の表情を浮かべていた彼は、急に目をギョッと見開き、次の瞬間にはその場に倒れこんでしまった。





……何、今の。

――この者は、闇の使いだ。君には害をなす者だ。



確かに、ドビーはマルフォイ家に使えているけど、私に危険を及ぼす存在だとは思えない。



「えっ、えっと……」

――その者に、問うてみるがいい。


完璧に話についていけてない私の戸惑いを読み取ったのか、本達がさり気なく助け船を出した。

どぎまぎしながらも、パタリと倒れているドビーに小声で問い掛けてみた。



「あ、あなたは私の何を知ってるの?」

……倒れている相手に対してこんな質問を浴びせるのは変な気分だったが、ゆっくりドビーは起き上がり、

私を見つめてとろんとした声で話し始めた。




「…去年の夏に、ドビーめは貴方様を森の中でみたのでございます。

その時の貴方様は今の様な黒髪に銀の瞳ではなく、変わった服装の少し背の高いマグルでございました」



淡々と話すドビーだが、その目は視点が定まっていない……まるで真実薬を飲んだ様に見えた。

あんなに私に慄いていたのに、その態度は何処へ行ったのだろうか。




「貴方の魔力は、特別でございます。屋敷しもべのドビーめには、仕えている時には魔法を使えないのです

 ですが"魔力を見切る事"は出来るのです。

 ですから、姿を変えたとしてもドビーは貴方がご主人様が探しているマグルである事に気づいたのです」



姿が変わっても…持つ魔力は決して変わらない――自分に"存在"と言う杭を打ち込まれた気がして、

心が重たくなったが、それでもドビーの話は続く。




「ご主人様は、今でも貴方様を探して魔法省の情報網に目を光らせていらっしゃいます。

 "同胞方"とも、密会を重ねていらっしゃるのです。

 ――…そんな貴方様の事を、ドビーめはご主人様にお知らせしなければならないのです!」



最後だけ、強気な発言を言い終わると、私を見上げていた顔をカクンと下に向けて動かなくなった。

背中に――ドロドロとした"不安定な感情"が、まとわり付き、多い尽くして行く。


どうしよう。どうしよう。





「汝、我に会った事を、決して他者に言わず、意識の領域に留めない様にせよ――Affirmation

――承認。該当する者に肯定を施す。




杖も使わず、迷わずドビーの記憶の操作を始めた…ギンッと、金属が高速で擦れる様な音が頭にガンガン

響き、ドビーは虚ろな瞳から急に何時ものおどろおどろしさを取り戻すと…――私になど目もくれず、素早く

その場から去った。


私の事など、見えてなかった――そんな事を、もう祈るしかないみたいだ。





記憶を消しても…関係を絶とうとしても……姿を変えても………私には、もう"逃げ場"がない。


自分の顔が、今どんな顔をしているのか考えながら――私は、ゆっくりと暗闇の廊下を歩いて行った。










ドビーの設定は、オリジナルですが、基本的には魔力が高いみたいなので参考に。
最後中途半端かもしれない…と言うより、さん。大ピンチ一歩手前でしたね。

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