"Sleeping rest"
















自分で…自分を滅したい時がある。

この非力に涙流し、この貧弱さに爪を立てて――。


でも、その弱さが仇となって…――私は死への凶器を握れない。




ちくしょう…ちくしょう……ちく…しょ……う…――。









自分が見詰めている物が何なのか、一瞬分からなかった。

白に、右からほのかなオレンジが刺す世界……それが時に揺らぐ…。

寝ている状態で、鉛の様に重い頭を動かして辺りを見る。

清潔を主張した空間に、私の漆黒の髪が目に入った。


――…此処は、保健室みたいだ。



「…全く、原因が分からないんですよ!」



その声に驚き、思わず私は起こそうとした体を硬直させ、瞳を強く瞑る。足音の量とマダムの話し口調から

推測すると、どうやら複数らしいが…私の所に来る必要のある人物が居ただろうか。


顔も掛け布団で覆い、狸寝入りを一生懸命しているが……慣れてない所為か、わざとらしさが出てしまって

いる気がしてならない。気付きませんように……。



「此処に運ばれて来た時には真っ青で、息が荒かったのに、

 実際治療しようと思った時には、両腕の掠り傷以外は悪い所が一つもなくて……」



それと同時に、仕切っていたカーテンがシャーッと音を立てて動いた……私はより一層身を硬くする。


――やっぱり、私は倒れて此処に運ばれて来たらしい…“代償”の限界を超え、

感覚だけでなく肉体の方まで影響が出ているとは思ったけど……。




「…彼女の病気について、スネイプ先生はご存じですか?」


――…ドーッキーーン!



我が寮監様でいらっしゃいますか……でも、さすがに“義務”には“肯定の力”はうまく作用しないみたいだ。

寮監として、確かに体調が悪い生徒の様子を見に来るのは当たり前だと、本人もおっしゃってましたし。

いや、寧ろこんな所にまで効果があってはかえって不自然だ。


しばしの沈黙が流れ、その間私は石の様に固まっているように耐えた。

そして、漸くスネイプ先生が発言をした。



「我輩も“原因不明の病”としか聞いておらんのだが……今度、校長から詳しく話を聞いてみよう」

「…そうですね、取りあえずミス・は"過労"と言う事で、一週間は此処で様子を見ましょう」

の勉強については、マルフォイに頼むとしよう…」



……カーテンを開けておきながら、二人分の足音は遠ざかって行く…。

そして、キィっと言う木の軋む音の後、教師二人は保健室を出て行った。


むくっと起き上がれば、予想以上に強く差し込む夕日に、目を瞬かせた。

……夕日って言うことは、そろそろ夕食の時間なんだろうなぁ。



「…本達、両手の掠り傷ってのは、一体どういう事?」


それが、さっきの会話で気になった事の一つだ。通常"代償"は、精神的もしくは神経に直接流し込まれた

"痛み"であって、実際に体に怪我をすると言う事は無いらしい……でも、どう言う事なんだろう。




――君が行ってきた"肯定"は、全て"精神"での代償で満たされていた。

   しかし、今日君が行った"肯定"は、精神でおさまり切れず、肉体的な代償が出たのだ。




…つまり、あの"肯定"は今まで以上に本当に危険だったと言う事らしい。

ハァーッと、盛大にため息を付いて、ようやく夕日に慣れた目で窓から外をぼんやり見つめた。



「…確かに、私には一週間ぐらいの休息がいるかもね……」



ぼんやりとオレンジの光を見詰めていると、瞼が落ちてきて、急に口から欠伸が飛び出してきた。

……色々あったから、本当に骨の髄まで疲れているのかもしれない…。


私はぽふんっと再びベッドに倒れこみ、素直に波寄せる睡魔に身を任せて、

"安息"と言う夢の中へ沈んでいった……。








一度データが消えたので、悲惨でした。
さんに、取りあえず一息付ける時が来たようですね。
……しかし、次で大きく、おっきく動きます。


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