"Solitude"


















極寒の中、春を心待ちにしていた"あの頃"の私……

春を飛び越し、夏を過ごし、秋を迎える"今"の私……

季節が変わろうと、私の心は今でも冬なんだと思う。




――…だから、春が恋しい。













 




あぁ、懐かしい。懐かしくて、心がギュッと絞られている感じがする……。

冷気漂うこの場の空気を――歌声で侵食する。







 




今まで歌った事の無いスローテンポで、穏やかに私の言葉は紡がれる。

世界から孤立化し、私は私として此処に居る。







 




瞳を閉じ、何かを補い、何かを吐き出す事しか出来ないこの私が……。

歌い手の私を壊してしまいそうな歌を、感情を込める。







 




唇から、か細い音でメロディーを綴る。

高音質の口笛が、強弱をつけながら、この場に反響し――何時の間にか消滅する。







 










消滅の前に、一瞬の輝きを望んでは…朧の中に沈む。


もがいてもがいて……やがて全てを奪われ、私は何になるんだろう?












「…ありがとうございました」


伴奏が無い、言葉とメロディーの歌に目の前に居る集団は無反応だった…いや、その数秒後激しく手を

動かして音なしの拍手と、賞賛の声が上がった。しかし、歌い終わった後の余韻に浸っている余裕は無い。

ステージを降り、他の客人同様拍手を続けているニコラスに近付き、言った。



「ごめんなさい、用事を思い出したのでこれで失礼します!」

「えっ、あっ待ってください!」


歌い終わった私が、何故こんなに焦っているのか分からないニコラスは焦った声を上げたが、

私はその声など耳に入っていなかった――…メアリーが心配なのだ。



「ごめんなさいっ――通ります!…本当に―ごめんなさいっ!」


幽体で溢れかえっているこの場所では、寒さを堪えれば走り切る事が出来る。私は小さな声で謝りながら、

大急ぎで地下牢から飛び出していった。






――…メアリーッ!メアリー!何処にいるのっ!?




ドレスローブは乱れ、髪の毛は纏まりが無く、息は上がっている。そして迂闊にも、ドレスローブでは目立つ

腕時計は外して来てしまった為、時間が分からない。心中で何か叫びながらも、私はすべき事を考える。





「本達、"肯定"の解除を望む」


――承認、肯定解除及び、代償待機解除。





「っく」


ピリピリと痛む地肌と、震える全身を確認し、私は即座に次の言葉を生み出す。



「わっ、我が偽の姿を肯定し、力を変換しっ、私の魔力として有する」


――承認。具現開始。



次々と起こる身体の変化に、"代償"の震えが一層増し、立っているのがやっとな程になってしまった。

しかし、自分の額から自然と現れたルリシジミを見ると、私はよたよたしい足取りで歩く。



――…メアリーが傷ついたなら、それは私の所為だ。あんなに"パーティーで会おう"って約束したのに……

果せなかった。メアリーが、あの場でどれだけ寂しかったか…分かる気がした。


そして、傷つく前に助けてあげられなかった私が――なんとも情けなかった。



――…どうか、メアリー。無事でいて!











〜§〜













「ハァッ、ハァッ……」


三階の女子トイレの前に到着し、私はドアを開けるか悩んでいた。

この先に、メアリーじゃなくて…"彼"がいたら。

しかし、耳を澄ますと、微かに私の耳に届いた。




「ひっく…ひっく…」


――…私は飛び込んだ。








「メアリー!!」



大声を上げ、私は扉を開けて中に入り、驚いて泣き止んだメアリーの所に駆け寄った。

そして、メアリーがゴーストであるのも忘れ、その体に抱きついた。



「本当に、ごめん……メアリーに待たせてたのに、会いにいけなくて…本当にごめんっ!」



抱きつかれている当の本人は、無言で何も行動を移さないが、私はそれでもよかった。

この"触れていない感覚"だとしても……何かを感じている私は変だろうか。



「独りで、あんな慣れない場所に居させて……ごめんね。

  メアリーが出て行くのを私見てたのに、直ぐ追いかける事ができなかったの……ごめんね…」


……」


メアリーはそう小さく私の名を呼ぶと、急にすーっと私から後退した。

不思議そうに見詰める私に、メアリーは潤む眼でキッと睨んだ。



「…本当は、アタシの事嫌いなんでしょ…」

「そんな、メア「出て行ってよ!…何時も何か隠してるアンタなんて――大嫌いよ!!









――…大嫌い…?







止め処無く涙が眼から溢れるメアリーと対象的に、私の瞳からは何も流れなかった。

泣きたい、メアリーに伝えて無い事が一杯ある……だけど、体は言う事を聞かなかった。


ゆっくりと数歩後退し、ドアの方を向き返って静かに歩みを進める。



「……ごめん」



その言葉を最後に、私は猛スピードで寮に走っていった。






今日がハロウィンで、秘密の部屋が開かれて、全ての発端が生み出される事を忘れて……。











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メアリーは、子供です。でも子供だから鈍感だと言う事ではないのです。

朧月夜は、著作権切れてるらしいですが、作詞作曲者名は明記しておきます。
朧月夜…作詞高野 辰之/作曲 岡野 貞一(敬称略)


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