"I was invited."




















『ニャァ〜オゥ……』




人気の無い廊下を歩いていた数秒後……。

たった今私の耳に届いた何かの鳴き声に、私はその場でフリーズする。

…で、出来れば振り向きたくない……でも、体はギッギッギッと、ゆっくりながらも後ろを振り返ってしまう。


…スラッとした体の輪郭に、くるんと立っている尻尾…そして、鋭い瞳――――。





『バサバサッ』



手に持っていた荷物が、ボロボロと床に落ちて音を立てる。

そして、当の本人――ミセス・ノリスは相変わらず私を怪しそうな瞳で見詰めている……。




…――ごめん…此処来て二回目の理性飛ばし行きます。









「キャァ〜〜〜〜〜 !!!ニャンコッ!ノリスちゃん!!」


『ギャオッ!?』





落とした荷物を気にする事も無く、私は猛スピードでノリスちゃんに迫っていく。

その速さは、文系体質の私には到底出せない速さなのだが……何故出せるのか、理由は簡単。


私が大の猫好きだから!と言う単純な事だ。


…確かに、振り返れば私が猫を好きな理由は幾らでも出てくる。近所のマンションの前には、恐ろしい程の

野良猫がざっと二十匹はいたし、母親がこれが又、私の上を行く猫ファンだった為、幼き頃から猫の魅力を

肌の毛穴の奥まで染み込まされ……。


今ではこんなに(異常な程の)猫愛好家になりました……。


だが運命の悪戯なのか、又は私の天性の所為か知らないが…私が猫を好きになれば成る程、

猫は私の事を避ける(&逃げる)様になる。


――…勿論、今回だって例外ではない。




『ドガンッ』

「ふぎゃっ!」



私が地面に全身を叩きつける数秒前に、ノリスは見事に横に避けて襲い掛かってきた私を先刻より更に

鋭い訝しげな瞳で睨んだ…猫に嫌われて、早十六年。いっその事「猫になってしまえばいい!」と幼心で

考えた事もあったが――何で、そんなに嫌がるのですか…?


(心に)涙を浮かべた私を尻目に、ノリスは警戒心を解かずに素早く私の前から去って行った。

――…でも、例えどんな事をされても猫を嫌いに成る気がしない。



「あぁ…又やっちまった……」



コンクリートの床にダイブした衝撃で麻痺していた体を起こしながら、一人苦笑いをする。久々にあんなに

興奮したから、程度って言う言葉を忘れてしまっていたみたいだ。


立ち上がり、関節に負担が掛かっていそうな気がしたので、数回ジャンプして骨を戻すと……色んな所で、

ピキッと小さい音がした。そして見事に辺りに散らばった手荷物の元に歩み寄って、鞄の中から飛び出した

羊皮紙やら筆記用具等をしまう。それと同時に今日作った肉じゃがの状況も確認したが、大丈夫そうだ。


全ての作業を終了させ、その場から立ち去ろうとした――その時。




「あっ!ミス・!!」



ノリスが去って行った方向の廊下から声がし、振り返るとグリフィンドールのゴースト。

――サー・ニコラスが何時もは見せない様な速さで私に近付いてきた……私、何かしただろうか?


そんな私を気にせず、彼は私の目の前まで来ると早口で色んな事を話し始めた。



「……いえ、貴方を随分探したのですよ!夕食後に声を掛けようと

スリザリン寮の付近で待っていたのですが、貴方が厨房の方へ向かったのを知ったのは随分後でして…」


「あの…何か御用だったの?サー・ニコラス」



 永遠と、此の侭自分の行動を話そうとする彼の話を遮って、私は彼に訊いた。



「あぁ!すっかり用件の事を忘れておりました…これは失礼」


そう言って、銀色の幽体を上下にゆっくり動かした後、軽く咳払いをしてから、言った。




「……実は、ミス・マートルから貴方は歌がお上手だと聞きまして…それで折り入ってお願いがあるのです」



凄く言いづらそうな表情と雰囲気を私に示しながら、間を空けるサー・ニコラスに、私は思わずその場で軽く

溜息をついた…何でゴーストって、こんなに照れ屋が多いんだろうか?むしろ果てしない時を超えてきたから

こそ、もっと鋭い部分があると思っていたんだけど…――勘違いだったらしい。



「私、実は今月のハロウィーンで絶命から500年経つのです。そしてその際に、ホグワーツの地下室を借り

"絶命日パーティー"を開こうと考えているのですが……貴方にパーティーで歌って頂きたいのです!」






『バサバサッ…』


折角纏めた手荷物が、再び手からすり抜けて床に落ちた……今、眼前に居るゴーストは何て言った?

私に、公の場で歌ってくれと言ったよね…?




「それは、冗談とかじゃなくて…?」

「わ、私は嘘など付きません!心から、お願いしているのです!」



彼の瞳が、一瞬で輝きを増して私に訴える――――何で、ゴーストは同じ手段を使ってくるんだ!

そんなツッコミを心の中で入れながらも、私は彼が言ってきた願いに対して再び困惑する。

私が――人前(ゴースト)で――歌える訳が――無いじゃないかっ!

頭の中で拒絶反応が起き始めたので、すぐさまニコラスの願いを断ろうと口を開いたが……思った。


少し、考えてみるのも有りじゃないかと。




「……ごめんなさい。少し考えさせてもらってもいいかしら?今週中には決めるから」


私が、ゆっくりとした口調でニコラスに言うと、彼はとても嬉しそうな顔をして「良い答えを待っています!」

と言って、とても楽しそうに浮遊してグリフィンドール寮へ向かう廊下へ姿を消した。


取り残された私は――無言で素早く手荷物を拾ってスリザリン寮へ歩いていった。





〜§〜







「うぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん………」


就寝時間が過ぎた今時点でも、私の唸り声はベッドの上からずっと部屋に響いている。

蝋燭の火は灯りっ放しだし、服も制服の侭で、そして折角作った肉じゃがにも手を付けずじまいで………。



良いよねぇ…二巻沿いのハロウィンの事件って〜。

なんかさぁ、"嵐の兆候"って言う感じで私は好き〜ww




……ふっ、こんな風に言っていた腐り気味女(三波)が居たら、殴りかかって一泡吹かせてやるのに…。

しかし、夢小説派の三波の自論を必死に思い出し、考える。



…でも、ハロウィンの時って夢主人公は思い切りは行動しないね〜!

下手に動くと腹黒な記憶サンに怪しまれるからって言うのもあるし、ましてや事件現場に行ってしまうって

事が起こったら、完全に疑いの眼差し受けまくっちゃうし〜難しいのかもねぇ…夢小説だと!




「逆に、危険か」

三波の独特の口調を思い出しながら、鼻で笑いながら呟く…あの散々コケにしていた知識が、役に立つとは…。


――…おそろしや。ドリーム小説の世界…。


しかし、頭の中ではその情報と、自分の感情が交差する。

行って見たい……でも、危険だ――ちょっと位なら……それが命取りになる――。



「あぁ!!!もぅ、何でこんなに悩むんだっ!!!」


悩み続けて数時間が経過していた…少し飽きたし正直疲れているが、脳内で究極の決め方を思いついた。

急いで鞄を引き摺り出し、その中を引っ掻き回して一番下に押し込めておいた財布を取り出す。

そして、財布の小銭入れから一枚の十円玉を取り出す。


これは、只の十円玉なんかじゃない――縁にギザギザが施されている"レアな十円玉"なのだ。どーしても

決心が付かない時や、選択するのが困難な時に…――私はこの十円玉で決める事がある。

今回も何時間も悩んだ上での決断だ。


表なら、諦めて守りを固める――。

裏なら……ハロウィーンをエンジョイする。



ピンッ



銅色の十円玉が、手から離れ宙に舞って行く……が、明らかに私の手の内に落ちてくると言うより

かなり弧を描いて床に落ちるように見える。




「のわっと!?」


ベッドから離れ、予測して十円玉をキャッチしようとするが――十円玉は願い虚しく床にチャランと落ちた。

久々にこれをしたので、自分が十円玉を飛ばせ無いのを忘れていた事に、今更気付き苦笑いをした。

そして、当の十円玉を床にしゃがんで見詰めた。



――…数字が書かれた裏面が、蝋燭の光で照らされて鈍い輝きを放っていた。



「…これも"運命"の一つなのかな?」


十円玉を拾い上げ、再び財布に戻し、鞄の中に放り込みながら、私は言った。別に嫌な予感もしないし、

寧ろその経験が出来るのなら望んでやりたい位だけど……それじゃあ日頃苦しんでいる意味が無い。

望みの立場を手に入れている私なのに、自分自身がそれをぶち壊してどうするんだ。



「確かに、そう言われたら…――元も子もないなぁ」


苦笑いと、溜息交じりの独り言が口の中から飛び出してきて、何とも変な気持ちだった。

鞄をベッドの下に潜らせ、着替えていなかった服をいい加減着替えようと思い、ネクタイをはずし始める。



窓に映る満月は、悩む私を照らし続けていた。




さん、何故かお誘いを頂く。
ニコラスへの返事は又次回〜
そしたら、結構話を進める予感……。
……さんのお友達の意見は、夢世界を知らないさんには結構重要。
だって、夢って所謂"もしも…"って言う世界だからね…


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