"Anger to my hand"


















朝早く、目が覚めた。

理由は簡単――――惨い偏頭痛に襲われたからだ。



「いってぇっ……」


目を開け、ベッドの天蓋を目で確認した直後の私の言葉だ。

何なんだろう、この頭痛……


頭部全体が痛むと言うよりも、どちらかと言うのなら神経が集まっている後頭部の部分を、内側から強く握ら

れているような気分だ。疲れだろうか……それとも、又昨日の一件の余波か?



――其れが、代償だ。


頭に重たい疑問詞を浮かべているのに気付いたらしく、本達は遠くから響く様な声で説明した。頭痛が

"代償"って……なんか変な感じ。"代償"って言ったら、自然と脳内の海馬から引き出される情報だと、

やっぱり錬金術系に勝手に走っていってしまう。


『何かを得るためには、同等の…――』としか、頭は処理できない。



「…あの。普通、もっと"代償"って重いものなんじゃないの。受けてる私が言うのも変だけど…」


 ――其れは、この世界自体が持つ利点だ。この世界は、基本的に我らがいた世界より"不確定な力"が

 強い。その分、君への代償は軽い物となる。もし、別の世界でならば、君は…この世にいない。




…つまり、この世界には魔力の存在があるから、その力で私に対する代償はかなり軽減していると。

じゃあ、リアルに質量を求めてくる錬金術世界(ハガレン)なら……私は死亡確定ですか。

のんきに本達から貰った情報を頭の中で加工して、記憶収納機能を持つ海馬の引き出しの中に収納しな

がらも、私は眠気が吹っ飛んだ自分の体を起こして、テキパキと身支度を整える。


髪の毛をセットしたり、歯を磨いたりしながら…思う。

この行動は、こっちに来る前と変わらない――そう、変わらないのが問題なんだ。


此処は、私が知っていながら、私の世界には無くて――でも、あっちの世界は回ってるし、こっちもちゃんと

回ってる……此れが、パラレルワールドのメリットなんだろうか。

本達があちらの世界で示していた時の刻みが忠実に再現された…全く別の世界に居るのが、凄く変。


リアルであって、ファンタジー……その、矛盾に慣れなくて、少し私は苦しんでいます。


あぁ、我が友三波…――アンタならどう生きる?





〜§〜





「……ハリーも大変ね」

「全くだよ!ウッドも熱が篭り過ぎだよ…」



大広間に入る前、そんな聞き覚えがある声を聴いた瞬間、私は廊下の壁にヤモリの様に張り付いて、様子

を伺う体制になる。出て来たのは――予想通り、ハーマイオニーとロンだった。


小声で会話をしながら、二人は正面玄関の方へ足を進めていった……そうか、学校生活が始まって始めて

の休日と言えば、クィディッチ練習での一コマか…。

なんか、時間間隔も鈍るし、本の中のイベントも余り気にしてなかった……私、腐ってもハリポ(原作)ファン

なのに――…そう言う訳で、私は仲良しな二人組みの後を付ける事にしたのです。





クィディッチ競技場に到着してから、あのいざこざが起こるのに少し時間が掛かった。

しかし、私は此処で見付かる訳にはいかない……私は観客席の二人から見えず、

そして同時に練習を始めるハリー達からも姿が見えなくなる場所に隠れて、暫し時を待った。



「…競技場を予約したのは僕だ!」


グリフィンドールチームのキャプテン、ウッドが信じられないと言わんばかりの声で叫ぶのが、競技場全体に

響き渡った……予想通り、スリザリンの長身メンバーがエメラルドのローブを微かに出てきた朝日でキラキラ

輝かせて、グラウンドの中央へ動いている。


キラリと輝いたその光で、一瞬頭痛が酷くなったが、心を落ち着かせるとスゥーッと痛みも和らいでいった。

上空に散っていた点達が、エメラルドの一団の前に集まっていくのが、少し楽しく見えた。



「…の選手は、お金で選ばれていたりしないわ。こっちは純粋に才能で選手になったのよ」


小さかった口論の声が、いきなり大きくなってしっかり私の耳に届いた――来る。






「…意見なんか求めてない。生まれぞこないの"穢れた血"め!









――…私の中で、何かが弾けて心の中を侵食し始めた。


苦しい…なんて醜い言葉なんだろうか。暴力的で、嘲る感情で満ち溢れた、悲しい言葉――。

何で、私はこの一言を聞いてこんなに苦しくて、其れと同時に、怒りが治まらないんだろう。

憎い。そんな猛毒を含んだ言葉を、身構えぬハーマイオニーに放った彼が……。

怒りで、わなわなと体が揺らいでいる私の遥か前方で、あの事件が起こった。

そして上がる、高らかな醜い笑い声…もう、我慢なんて出来ない。




走った、走って走って走り抜けた。肉体を取り払って風の様に速くなりたいと、この時だけ思った。

ハリー達が、グラウンドの出入り口近くまで行き着いた時、私は残された赤と緑の集団がいる所に着いた。

私の事に気付いたドラコ君が、さも愉快そうな余韻に浸りながら、話しかけた。



「やぁ、!……君も見ただろう、あのウィーズリーの…――」




バシッ




怒りが、私の肉体を動かして疾風の拳を生み出して、新シーカーを殴り倒す……その、私の突然の行動に

他の彼等は何も言えず、只唖然としていた。


しかし、殴られた当人のドラコ君だけは、芝生に叩き付けられた上半身を起こし、私をキッと睨んだ。



「何するんだっ!痛いじゃないか!」

「……痛い。それが貴方が感じる痛みなの…?」


私の声が、微かに震えている事で、ドラコ君も驚いて口をつぐんだ。




「……貴方、自分が口にしていた言葉が、一体どれ位酷い言葉なのか――分かってるのっ!?


呼吸器官から、湧き上がってくる怒りが、止め処無く鋭い言葉を紡いでいる。そして、私の眼には熱い滴

が輝いている……そんな事、当人の私にだって分かる。


「貴方は、相手の痛みを感じられない人なの?言葉は、時に身を切り刻まれるより酷く、惨い道具なのよ!」


頭痛が、なお一層酷くなる――涙の量が増え、頬に二本の線を延ばし始める。

怒りが治まる気がしない。自分が言っている言葉の、意味がどんどん分からなくなる。




「肉体的な傷なんて、隠せるけど、言葉の傷は、貴方が居なくなっても、

 その傷が完全に癒えても、思考に感染するのよ……」



……誰も、何も言わない。言わない理由なんて知らない。考える余裕もないし、今は私の頭が変だ。

散々、大声で彼を戒めていたが、漸く少し落ち着きを取り戻してきた私は、言った。



「…其の痛みは、消えてしまうけど、私の言葉が貴方の心に留まる事を願うわ」


そういい終わると、私は足早にグラウンドの出入り口に徐々に速度を上げて走っていった。



――…感情的に成れば、それだけ自分を破滅へと導くぞ。



自分の中で、自らの戒めの声が聞えた気がした。其れと同時に頭痛も一気に強くなる。

……分かってるさ。感情的に成れば、其れだけ防護壁は脆くなる。

知られちゃいけない……この記憶は、自分以外の何者にも…――。

塩辛い水分を所々に散せながら、私は学校へと続く丘を駆け上がっていった。










少し……短い?
でも、此れで原作沿い夢小説らしくなってきたよ…ね。
お気付きの方がいらっしゃるとは思いませんが、
さんは、凄く(記憶や代償以外の)何かに束縛されております。
分かります?いや、無理に共有化させる気はありませぬが…分かっていただけるといいなぁって。
最近、思い話ばっかりですね。次は「緑と〜…」みたいにハっちゃけます。


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