"Green, fem green...and linden"




















ある本の一ページと睨めっこを始めて、早数十分が経過していた。

私は、半ば諦めの感情を心に秘めていた…――理由は簡単。


何でこんなに複雑なんだっ!?


ありえん!その難易度は、幼稚園児にフェルマーの最終定理をやらせる位無謀な難易度だ。

基本が分かってない私に、何故こんなに難しい問題が来るんだ!!



「あぁ・・・勉強むずいよ・・・」


窓から差し込む夕陽で、私の(心の)涙がキラキラと輝いている予感がするが、結局の所どうしても分からな

いので、教科の先生に聞きに行く事を決めた…まだ勉強する所は腐る程あるのだが、"先生に聞きに行く"

と言う理由をつけてやめる。


たった一つの問題の為に引っ張り出して来た本を片付ける為、とりあえず席を立ち上がる。

広いテーブルに、私一人だけというのは……何となく違和感を覚えた。



「意外と・・・そんなに勉強熱心な生徒はいないのかも」


確かに、そうかも知れない。夕食の時間まであと少しだから、他の生徒が居ないだけなのかも知れない。

もしくは、授業開始から一週間も経ってないのに此処に入り浸ってる私の方が異常なのかもしれないが…。


本を元の場所に戻しながらも、さり気なく他の本を整理している自分に思わず笑ってしまった。


……小、中学校含めて、何年も図書係をやったクセが今に生きてるな。



「ふぅ〜…メシ食いに行くか」


首をグルグル回しながら、勉強用に持って来た道具を持って図書室を出ようとした――刹那。




『ガンッ』


「ぶへっ」

「キャッ」



効果音の三連続が続いたが、私はその状況を理解する前に扉の先から現れた誰かとぶつかって尻餅を付

いてしまった。顔面に物理的痛みが走って少しの間目が開けらそうになかった……が。




「は、ハーマイオニー!?」

「どうしたんだ。一体!」



その声に、思わず痛みも忘れてすぐさま前を向くと、予想通りの人物達が視界に入った。


栗色のウェーブがかかった長い髪がとても印象的な少女と、彼女を心配する赤毛少年と黒髪少年がいた。

…そして、彼等の着ている制服には――私の寮と対立する者の証でもある紅のエンブレムが。





――すみません、理性数秒飛ばします。



キターーーーーーーッ!生主人公メンバーぁ!!

余りに此処で生きる事を考えすぎて、こう言う楽しみをすっかり忘れてたぜ!

ギャーーーッ!可愛いよ、ハリー!綺麗だよ、ハーマイオニー!かっこいいよ、ロン!



あぁ…一瞬の幸せ……。






「あ、大丈夫?貴女……」


ハーマイオニーの心配そうな声で、私は急いで現実世界へと精神を連れ戻して来る事に成功した…ぶつか

った衝撃が、私に一瞬の脳震盪を引き起こしたと誤解してくれたらしく、怪しまれずに済んだ。



「あ、あのっ、すみませんでした!そちらこそ、大丈夫ですか?」

「ワタシは、大丈夫だけど…貴女の荷物がグチャグチャ……」


あ。と言う表情で、私は自分の周りの床を見渡すと、確かに今まで持っていた荷物がバランバランに散らば

ってしまっていた。羊皮紙などは、窓から吹いていた風の悪戯の所為でかなり遠くまで飛ばされている。


急いで立ち上がって、素早い動きで荷物を拾い始める私だが、いかんせんシャーペン等が入っている筆箱

の中まで出てしまっていた為、散らかり様はハンパじゃない。


一生懸命拾っている私に、影が落ちた…見上げると、ぶつかってしまった当人のハーマイオニーが羊皮紙を

拾い集めてくれている。


「ほら、ハリーもロンも拾いなさいよ!」



その声で、フリーズしていた二人が素早くかなり遠くまで飛んでしまった別の羊皮紙を拾い始めてくれた。

みんないい子だ……君達の心優しさは、私をしっかり感動させてるよ!


数分後、大体の荷物を拾い終わった私に、その他の物拾ってくれた三人が一人ずつ渡しに来てくれた。

ハーマイオニー、ロン…そして最後のハリーだが、私に羊皮紙を渡す前に何とも言いずらそうに聞いてきた。



「ねぇ、この絵ってなんの絵?僕、見た事ないけど…」



羊皮紙の間から、一枚何かを抜き出すと、ハリーは私に向けてそれを見せる。




・・・・・



やばいっ!

緑お化け(通称モ○ゾー)黄緑お化け(通称キッ○ロ)がいるじゃねぇか!!


愛○万博ネタで質問しないでください!もしろ流して欲しい!!



「ホントだ。なんだろう、この絵?」

「私も、こんなキャラクターは見た事ないわ……外国で買ったの?」



頭が完全パニック状態までカウントが始まっている私がいるのにも関わらず、追い討ちを掛ける様にロンと

ハーマイオニーが意見を言う。


ヤバイ。人がいないからって、愛○万博の下敷き使ってた私が馬鹿を通り越した真の馬鹿だった!



「えっと・・・あっ、小さい時にマグル製品好きの叔父さんが遊びに来てっ、その時くれた物なの!

 東洋の人だったから、見た事ないのは当たり前よっ!・・・・ありがとっ!」



ハリーが持っていた下敷きを少し強引に受け取って、私は急いで羊皮紙の間に挟みこんだ。


明らかに、三人は納得していない表情をしているが、私はそれをあえて気にせずに、三人から受け取った荷

物を鞄の中に滑り込ませた。



「ぶつかって、本当にすみませんでした……じゃあ、私は此れでっ!」

「え・・・?あ、ちょっ。ちょっと!」


ロンが呼び止めようとする声をかわし、取り合えず図書館の入り口から姿が見えなくなる場所まで行くと、

私は再度辺りを気にしてから一息を付いたが…さすが西洋建築。職人の技が施されている建物ほど、遠く

の声でも反響して私の耳にも届く。



「・・・なんだったんだろうね。彼女」

「っていうよりも。今の奴スリザリンだろ?ちゃんとハーマイオニーにも謝ってないし」

「謝ったわよ……でも、不思議な子ね。二年生に編入して来るって言う事は、何かあるのかもしれないわ」


響く会話で、完全に聞き取れたのは其処までだった。多分、完全に図書館に入ってしまったんだろう。


――なんか、意外とみんな感が鋭い。

製品に頼ったり、逃げたりしないで生きているからだろうか…普通の十二歳より数段凛々しく見えた。



「やっぱり、予防線張ろうかな……」


私が考えている予防線とは、つまり"空気人間に成る事"……極限まで影を薄くし、必要な時だけ現れる

とっても便利であり、かつ生きやすい立場。多分、一度は本達に相談した方がいいだろうけど…そんな悠長

な事を言っている余裕が無いかもしれない。


いつ相談するかを頭の中でもんもんと考えながら、私は大広間へ足を進めていった。






〜§〜






「・・・失礼しまーす」


夕食が済み、私が寮に戻って荷物を置いてきた後、私が覗き込んだのは――教務室の中だった。


自分の中で決めていたスケジュールを果すべく、私は教務室に現れたわけでなのですか…初めて教務室

を訪れるので、少し緊張気味だ。

教務室に完全に足を踏み入れ、ドアを閉じると、私はお目当ての先生を探すのと同時に教務室内部を詳しく

見渡すが…内装は私が通っていた中学校とほぼ同じに等しいほど似通っていた。しかし、確認出来る教師

方々の数は四名程しか居ない。


立派な木で作られた事務用デスクが綺麗に列を作って並んでいた。長細い部屋にあわせて、奥へ奥へと

その列が続いている…簡単に言い表すのなら、中学校の学活の時間でやった机合わせが二列かな。


私の知っている中学校の教務室もこんな感じだが、唯一違う所と言えば、事務用デスクの対と成っている

椅子は肘掛け椅子で、机の上には殆ど荷物は置いてない…いやむしろ使った形跡もなかった。

そして、部屋の一番奥には洋箪笥が幾つも置いてあり、よく見れば時々カタカタと音を立てていた。


形だけ作った様な教務室だが、私はそこでお目当てであるマクゴナガル先生を発見する事ができた。

スタスタと歩いていって、何かの本を読んでいる先生に声を掛ける。



「先生?・・・あの、変身術で分からない所があるんです。教えて頂けませんか?」

「えぇ、いいですよミス・。何処ですか?」

「えっと・・・此処なんですが――」


私が唯一持って来た本の一ページを開いて先生に見せると、優しかった先生の顔に何故か皺が寄った。

不思議がっていると、深く溜息をついて先生が力の抜けた声で言ってきた。



「ミス・・・・貴女はこの本の学ぶのには早いと言う事を知っていて、私に聞いているのですか?」

「・・・はぃ?え、だってそれには"振り返る変身術――T年生"って書いてありますよ?」


 その私の一言で、先生は本を閉じ、表紙を見ると、何故かピンと来た顔になった。


「……誰かの悪戯に嵌ったのですね――Finito Incantatem!」


先生はローブから杖を素早く取り出し、解除の呪文を唱えると、"T"の文字がうねうねと動き…。

……"X"に変化した―――X(5)年生!?



「…通りで分からないわけですね……ありがとう御座いましたー」


ハハハハッ・・・あんなに頑張ってたのに・・・誰かの悪戯(予想は双子)の所為でオチるのか・・・。

あぁ…泣きたいなぁ――私の考えた時間を返せや!


精神崩壊の局地まで行こうとしている私に、マクゴナガル先生は不安そうな視線を送ってくれたが、教務室

から出ようとすると声がかかった。



「ミス・!ちょっと、コチラにっ!」


高音質で耳に悪いキーキーヴォイスが、私の耳に届き、視点を定めてそちらを振り返ると…妖精学の教授

であるフリットウィック先生がいらっしゃいました。


何でだろう……彼の声を聞くと最近頭痛がする。

取り合えず、いかないとやばい気がするので、マクゴナガル先生に質問する為に持って来た本を右手に持

ち直して、フリットウィック先生のいる肘掛け椅子(何故か他のとデザインが違った)に行った。



「……何でしょうか?先生」

「いえ、貴女の"杖"についてお聞きしたい事があるのですよ!」



・・・来たよ。又、私が聞いて欲しくない話題を話さなくちゃいけないんですか。

素性がバレたらやばいんで、出来れば深く追求しないでくださいね。ミニマム先生様。


「杖を見てもいいでしょうか!」

「…えぇ、構いませんよ」


いや、本当は凄く嫌です。バレる可能性もっと増えるじゃないか!

しかし言った事は言った事、私はローブのポケットから深紫色の杖を取り出し、先生に嫌悪感を隠しながら

手渡した……キラキラと、まるで子供の様な輝きを持つ瞳で杖を見詰める先生――ハッキリ言って、怖い。



「これは、これは……」

「あの、お一人で納得せず、私にもその情報を教えてください!」

「おぉ、此れは失礼……いやぁ、とてもしなやかで魅力的な杖だと思ったのですよ!

 芯が分かりさえすれば特徴がもっと分かるんですがね……」


「つ、杖の材質は分かるんですか?」



余りにも熱く語る先生に、私もついつい自分が作った"偽の杖"の情報を訊いてしまう。

その質問に答えようと、先生はじっくり見詰めていると…頭に豆電球(古いっ)を浮かべて、興奮して言う。



「此れは珍しい!……菩提樹の木とは…――」

「菩提樹とは、本当ですかっ!?」



興奮する妖精学教授に、更に動揺した声で薬草学のスプラウト先生が叫んだ。

落ち着きが無い足取りで、自分が座っていた椅子から立ち上がって、隣まで来たスプラウト先生は、言う。



「是非、その杖――私にも見せて頂きたいわ!」

「どうしたんです、ポモーナ。いえ、二人とも。の杖は、そんなに貴重な物なのですか?」



教師二人の、余りにも指導者らしからぬ行動に、マクゴナガル先生は少し焦った声で訊いた。

しかし。ポモーナって……あ、スプラウト先生の名前か。嵌ってた時、ネットで載ってた気もしないでもない。

煌く二対の眼が、マクゴナガル先生に向けられ、そしてスプラウト先生が答える。



「菩提樹とは、二つの種類があるのですが、その両方とも強い魔力を持っていて、増してや杖の材質にする

 などとは至難の業。…そしてその"菩提樹"の中でも"印度菩提樹"と言う物は普通の杖より数十倍程の

 魔力が宿っているのです!」

「……ミス・が持っている杖が、"菩提樹"であっても"印度菩提樹"であっても、
 
 とても貴重なのは同じなのですがね!」


熱く語る薬草教授&妖精学教授は、遠目から見たら異様な雰囲気を放っているのは、言うまでもない。



「――…そんな貴重な杖を、何故ミス・は持っているのかね」


燃え上がる二人とは対照的に、最初に確認していた教師人数の最後の一人

――…魔法薬学の"セブルス・スネイプ教授"が教務室の隅の肘掛け椅子から訊いて来た。


………すんません。怖いです。スネイプ先生から氷河期でも来そうな程の冷気が来ています。



「あの、母の形見で……他には何もなくて……」

「ほう……君の母君のお名前は?」




こわいこわいこわいこわいこわいこわい………。



詮索しないでください……我が友(自称:魔法薬学教授LOVE)の三波は喜ぶでしょうが、私は結構です。

でも、この侭じゃ本当に組み分け帽子みたいに私の"素性"がバレる可能性も出てくる――此処は…。



「スネイプ先生!…その質問をに訊くのは、酷です」


私の(騙し)泣き顔に気付いてくれたマクゴナガル先生が、スネイプ先生にそう言って、ピンチから救ってくれ

ました…――ありがとう。先生!



「すみませんっ!私、まだ勉強する所があるので、此れで失礼します!!」


思い立ったら直ぐやりましょう――私は、まだ妖精学教授の手に収まっていた自分の(偽)杖を奪い取る様に

持って走り、教務室の入り口まで早足で歩いて行くと、最後に教師団に一礼し、そのまま教務室を出た。





――――…やべかったー。



心の中でそう呟いて、私は足早にスリザリン寮を目指した。


早く、対策を取らないと、きっとバレる…――。









さん。メインキャラ接触第二段。
『未来を変えてはいけない』と言う事がなければ、多分もっと柔らかく接する事が出来るんでしょうが……。
緑と黄緑については……ファンの方。ごめんなさい。
しかし、教師達で遊び過ぎたきもするね。
多分、ミネルバ様。フリットウィック様にはお気に入りな存在のさん。
でも、セブルス様には、少し怪しまれつつある……大丈夫ですか?
さんの"(偽)菩提樹杖"については、又詳しくある予感。

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