寒空の下、彼は大きな"けのび"をしてこった筋肉を和らげようとしていた。 厚い雲の間から微かに射す太陽で、彼の赤紫色の髪の毛がキラリと輝いた。 「ん〜っ、と。相変わらず、岡山の授業は疲れる……なぁ、クリちゃん!」 「確かに、岡山先生の授業は……眠たくなるね」 そんな言葉を返す"クリちゃん"と呼ばれた明るい茶髪の青年――藤谷は、 必需品と黒のギターケースを持って赤紫髪の青年の隣に現れた。 「でもサック、本当は寝てたよね?さっきの授業」 「いや、ばれてないと思うし――…さぁ、お客さんが待ってる!行こうクリちゃん!」 更に鋭い言葉を浴びせられた"サック"――安城は、完全に話を逸らしての腕を掴み、 猛スピードで下校する生徒達で溢れ返っている校庭を走り始めた。 「早く校門いかねぇと、バスが出る!!」 「……後、一分しかバスがいないのに、走ろうとしてるサックに俺は拍手を送ってあげるよ」 はそう独り言を口にしたが、当の本人は茶色のギターケースを背負いながらもしっかりとを引っ張りながら 校庭を新幹線の如く走り抜けていく。 「――おっしゃぁ!見えた!」 校門の向こうに、この地域特有のオンボロバスが止まっているのを、は発見し、なお一層速度を上げる。 「待てこらぁぁぁぁ!」 「…さっき"疲れた"って言ってたのは誰だったかな…」 オーバーな言い方をするのならば、今二人の速度は音速域まで達しているだろう。 そのお蔭か、どうやらバスも間に合いそうだ。 ――…しかし、甘かった。 校門まであと少しの所で、はバランスを崩してつんのめりになり、後ろに付いていたも同じ状態だ。 「「うわっ」」 しかし、先刻の"速度"の所為でバランスを立て直す事も出来ず――ぶっ倒れた。 ズザザザザッ 体全身に加わる衝撃と、思考回路の麻痺状態。そして顔に容赦なく傷をつける砂の感触――砂? 「……いっ、たぁ…」 目に入りかけ、そしてまだ付いたままの砂を痛みでジンジンする手で払いのけ、は目を開けた。 ――…しかし、すぐさま隣りでまだ動けない状態のに話しかけた。 「…サック……」 「ど、どうしたぁクリちゃん」 「――…此処、何処だと思う」 「えぇ、だから校庭走っ……」 が、余りにも変な事を聞くに対して何か言おうと、急いで起き上がり辺りを見たら――言葉が続かなくなった。 そこは、森林浴をするのには相応しい環境を兼ね備えた場所だった。残暑の影は見えず、 大樹から生い茂った枝と葉で、日光は遮られ、時折吹く微風がとても爽やかに感じられる……明らかに、森の中。 「…ずっこけて、幻覚が見えてるとか」 「まず、二人同時に同じ幻覚が見えるとは思わないよ?」 「……勢いがあり過ぎて、学校の近くの林に入っちゃったとか」 「学校の近くには、林どころか"木"もないよ」 「――…夢?(過去形)」 「サック……現実逃避しても意味無いよ…」 爽やかな風が吹く森の中。 「此処は一体どこなんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 ――…の叫びが虚しくこだました。
はぃ、少し前にアップしたのに、 間違えて消しちまったので後半が変かも。 次は長くなるかな?