「そう言えば…明智さんは神社で私と会う前に何をしてたんですか?」


はカタカタと愛用のノートパソコンを弄りながら、明智にそんな質問を投げかけた。

明智の方はと言えば…が適当に持ってきた書物の中から一冊手に取り、ページを捲っていた。
には何を読んでいるのか見えないが、本には『簡単!ひとのカラダ百科』と書いてあった。
顔を本から上げてを見た後、彼は少しの間を空けてから、口を開く。


「――戦場にいたのですよ」
「戦場、ですか?」


一瞬彼の口から出てきた言葉にはキーボードを打つ手を止めるが、思い直せば当たり前の事。
彼は、の世界で語り継がれた像と大分違うが――戦国乱世を生きる武士なのだから。


「丁度、奇襲を受けましてね」


遠くを見る様に、明智は言葉を紡いでいく。
何処かぼんやりと、しかし言葉はしっかりと。


「雑兵ばかりでしたが、油断してしまって…矢が向かって来るのを見た瞬間――あの場に」


そういい終わると、と明智の間に沈黙が流れた。
は、静かにキーボードの上に置いていた手を顔に近づけ、指先を見つめる。

微かに残る、の色。

自分の、明智の物でもない――死者の血だと思うと、身の毛がよだつのがには分かった。
急いで、対になる指先で色を掻き出す。





「ところで…貴女は何をしているのですか?」


沈黙を維持していたに対し、ゆらりと立ち上がり、明智は足音も立てずに背後に回る。
しかし考えを巡らせ、気付いた時には背後に居た彼に、は妙に大きな反応をする。


い、何時からそこにいたんですか!?
「?…おかしな事を言いますね。私は歩いて此処に来ましたよ?」
「足音、しっしませんでしたよ?!」


急いで、開いていたインターネットの画面を閉じ、念の為パソコンの蓋を閉める
しかし、その慌てる様が明智には楽しいらしく、小さくクククと笑って言葉を続ける。


「貴女が考えに耽っていたのが悪いのですよ?」
「そ、それは確かにそうですが…!」


その言葉に少し顔を歪め、押し黙ってしまう
確かに自分に非があるのは分かっているが、素直に受け入れられない。

のなかでは、明らかに先刻の出来事は"不意打ち"であって、
理由を並べられても納得がいかないのだ。


「…ところで、これはなんと言うのです?」


明智が指差し、質問してきた物――ノートパソコン――について、
は話題の転換の為、素早く答える。


「えっと…これは"パソコン"と言って、色々な事が出来る便利な物です。情報を見たり…」
「それなら――何故私がいる事に気付いた途端に閉じてしまったのですか?」


げっ、とばつの悪そうな顔をするに対し、明智はより一層楽しそうな笑みを浮かべた。
――…明智さんは、完璧に自分の反応で遊んでいる。

その事実に、微かな苛立ちを覚えるだが、
明智がパソコンの蓋を開けようとしているのを見つけて、すぐさま焦って妨害する。


「何開けようとしてるんですか!!」
「フフ…私に見せるのが嫌なほど楽しい物なのかと…!」
「そう言うわけじゃないんです!…ホラ、又手出そうとしないでください!」


そして、が必死になって妨害し、
明智がそれを掻い潜ってパソコンに手を伸ばすと言う攻防戦が、後数分間続く事となる……。




サディの血が戻ってきましたよ。明智さん。