「私には兄が居るんですが、今少し遠出してるんです。
 多分…明後日か、明々後日に帰ってくると思うので、
 その時に明智さんが本当に此処にいられるか決定します」


そう言うとは手に持つ椀から、ズズッとお吸い物を啜る。
比較的穏やかな朝食を、少しマナー違反だが布団の上で口にすると明智さん。
勿論、彼が食物を口にする前に毒など入っていないと証明して見せたが…ひたすら、彼は無言だ。

信用されているのか、やはり警戒しているか分からない相手に不安を覚えつつも、
空になった椀を運んできた盆の上に置き、声を掛ける。



「あの…美味しい、ですか?」
「えぇ、少々味付けは異なりますが、殆ど元の世の食事と代わりません」



微笑みながら明智さんはそう言った…普段はこんな顔をするのだろうか、妙に爽やかである。
白米はちゃんと炊いたものだが、お吸い物はインスタント…何となく、口にあわないのではないかと、
は不安に思っていたので、それはそれで安堵の息を漏らした。

特に会話もせず朝食を済ませ、は空になった食器をお盆に乗せ、勝手に向かうが、
その後を、明智さんは静かに足音も立てずについて来た。



「…な、なんでしょうか?」
「貴女、私の鎌はどうしました?それに、服と防具も」



武器の優先順位が高いことを少し気にしながら、は視線が気になる斜め後ろを見る。

……先刻の穏やかな笑みを浮かべていた彼は何処へやら。
なんと言ったらいいのか。顔は妖艶に笑っているが、目だけ笑っていない。
殺気が所々に見え隠れはするが、とりあえず素直には答える。



「残念ながら、あんな物騒なものは私が隠しちゃいました」
「……返してください」
「駄目ですー、この世には"銃刀法"と言うややこやしい規則がありますから!」



そう言うと、は視線を戻しテキパキと後片付けに専念する。
…後ろから来る、おぞましい程の殺気はあえて(頑張って)無視して。



「――そう言えば、明智さんは持病があるんですか?」
「はい?」



唐突にそう聞けば、何とも拍子抜けした声で返事が返って来た。
だって、と言う声に続けて、が言う。


「そしたら、何故鎌振り上げた瞬間に倒れたんですか?」
「・・・・・・」


質問を浴びせた瞬間、明智さんは急に黙り込んでしまい、は混乱した。
触らぬ神に祟り無しと言うが、性格が未だに掴めない明智さん相手では、急に怖くなる。


「あ、あの…明智さん?」
「…おや、これは失礼。少し考え事を…」


人が質問をしたのに、考え事を先に優先させるとは……どういう性格なのか。
呆れてため息をつけば、明智さんはその件に関してもう触れられたくないらしく、
突然あれこれ質問し始めたので、は言葉を選びながらそれに答えていった…。





「おかしい…」

小さくそう呟くが、まだ勝手で後片付けをしている少女に聞こえるはずも無かった。
確かに自分はあの少女を殺そうとした。しかし鎌を上げた刹那――

ドス

首筋に微かな痛みを覚え、一瞬手を止めたと思った体から力が抜け、そのまま意識を手放した。

衝撃の方向から言えば、あの少女が身を守る為に攻撃を仕掛けたと言う事はまずありえない。
ましてやそんな自分をわざわざ家に招き居れる様な事などしないはず。
光秀はゆっくり首の痛みが残るその場に触れた後、手を口に持って行き、舐める。

……毒だ。それも強力で、即効性のある物だ。



「…っ、クク……面白くなってきました…」



そう言って、光秀はとても楽しそうに再度その場を舐めた。





…明智さん、情緒不安定(ぇ)
毒舐めても少量なら平気だと思います!多分。