は身構えていた……どんな質問が彼の口から飛び出してくるのかと。 「とりあえず…お名前を教えていただきましょうか」 「はぃ?」 明智さんの不敵な笑みにあからさまに警戒していたは、思わずズルっと滑った。 確かにこれから情報交換する為には相手の名前を知るのは大切だとは思うが……。 とりあえず、明らかに知識不足な明智さんには素直に自分の名を名乗るべきだと、は認識した。 「私の名前はと言います。結と呼んでくださいー」 「おや、氏があるのですか?しかし、耳にしない氏名ですね…」 「ここでは全員に苗字、いえ氏があるんですよ」 何とも言葉遣いやら価値観が違うと、こんなにも注意して発言しなくてはいけないのかと、 はこの先が不安になったが、質問権が自分に回ってきたのを好機と思い、すぐさま発言する。 「では、明智さん……この人物をご存知ですか」 と言ってバンと新聞紙やらチラシやら乱雑に置かれている中から引き出し、明智さんに見せる。 ――…そこには、義務教育を終えたものなら一度は見た事がある筈の、戦国武将のクリップが。 しかし、そんな物が何故ごく自然に部屋の一角から引っ張り出せたのかが不思議なのだが。 「……なんですか、こののっぺりした顔は」 「実はですね、貴方と同じ名前の方を私知ってまして、 もしその方なら確実にこの人の名前を知ってる筈なんです」 と、真剣な顔で説明する。 明智さんから見れば全く意味不明な発言をする結だが、何か考えがあるのだろうと素直に首を振る。 一体誰なのだろうか、自分の顔見知りの顔を思い出す光秀だが、どれも似ても似つかない。 「…して、このお方の名前は?」 「織田信長さんです」 結はストレートにそう答え、そして明智さんは綺麗な顔を少し歪める。 予想通り…多分こちらとあちらとではやはりクリップの人は違うのだろう。 それはそうだ、の学んだ明智光秀からはみ出した彼と同じく、彼の世界での織田信長も "異様"なはず――寧ろ異様でなければ困る。 「こんなのは信長公ではありません」 「でしょうね…これでハッキリしました」 「…どう言うことです?」 「つまりですね。私達の世界では明智さんや、今お見せした方等は有名なんですよ。 でも、私達が知っている"明智光秀"は明智さんと全く違う人物で…はっきり言うのであれば」 ひとつため息を漏らして、言う。 「明智さん。多分、貴方は別の世から来たんです。 此処は明智さんとはほぼ無関係の、場所なんです」 極限までストレートな話を平気で目の前にいる明智さんにぶっ掛ける…。 相手が不安がらないように精一杯結なりに言葉を選んだのだが、全くもって無意味である。 明智さんは考えを巡らせているのか、暫し口に手を当てて視線を落として黙っていたが、 少しずつ何か呟くようになり、最終的にはを目をみて発言する。 「つまり、私は突如私の知る世から別の世に動いてしまったと?」 「そうですね。明智さんを"明智光秀"と信じた上でですが」 確かに信じなければこの説は成立しない。 出来ることなら「嘘です」と言ってくれた方がいい、とは思ったが――殺されかけたのだ。 もう此処まで来たら本物でなければ命を狙われた自分が許せない。 「――…で、ですね」 此処まで来たならそろそろ明智さんだって選択は出来るだろうとは判断して、ゆっくり 言葉をまとめて、口にする。 「明智さんはどうしたいですか?別に私がここに勝手に連れてきちゃったので、戻りたいなら神社 まで案内しますが…勝手が分からないこの世で生きていこうとするのは難しいと思いますよ」 「そう言う貴女は、私を此処に置いてもいいと言う考えなのですか?」 「別にいいですけど…あ、でもちょっと問題がありますけど、別の世に飛ばされて不安一杯な人間を 放り出すほど私は冷酷じゃありませんし」 ……と気軽に言ってのける結に光秀は内心混乱していた。 光秀が知っているどの考え方とも違う結が、とてもとても不思議で仕方が無い。 もっとも、の言ったとおり光秀は自分でも何故この世に来たのか分からない状況であり ましてや未知なる世で一人で生きて行けるとはとても思えない。 ――ここは、目の前の少女に頭を垂れるしかないだろう。 「…よろしくお願いします」 「はい分かりました〜…お腹空きましたね。何か持ってきますね」 そう言って布団から立ち上がり、別の部屋へは姿を消した。 を見送った後、 光秀は小さく小さく自分の置かれた状況と、のテンションのギャップにため息をついた。 偽明智警報でs(黙れ) しかし、何処からクリップもってきたんだよ。 帰 進 |