よどんだ意識が、浮上する様に覚醒する
――此処は何処だろうか。




肌に触れる感覚が心地良い…どこか安心させるような、香り。
そう認識して、眠りについていたくすんだ銀髪の彼――明智光秀は眼を開けた。

まず、ひとつ考えを巡らせる事となった。
光秀の視線の先――本来なら外なら空、室内なら天井だが――にあるものに対してだ。
自分が知っている天井がそこにはあったが、それになにやら丸い物が取り付けられ、光っている。
あの中に火でも灯っているのかと言う仮説を立てたが、天井に火を近づければ燃えるだろう。


とりあえず、ムクリと体を起こしてみる。


思ったほど自分の体は重たくなかった…否、体に残る防具の重さがごっそり無くなっているのだ。
よく見れば、服まで自分が知っている物ではなく、何とも簡素な作りの物に変わってしまっていた。
比較的良好な己の身体を確認した後、光秀はゆっくりこの場が何処なのか理解する為、見渡す。


一言で言えば、乱れていた。

光秀の価値観と世界観から見れば、とにかく此処は荒れて見えた。
奇妙な形の物や、自分が見にまとっている様な衣類など…知らぬものも多かったが、
なんとか理解できたのは、奥の方にある背の高い台(確か、テーブルと言ったはず)と――



「おや…」



この場の壁に寄りかかる様にして眠る一人の少女。
……意識が覚醒する前の事を思い出そうとすれば、唐突に頭に声が響き渡る。




「いえ…只の通りすがりなので」
「貴方…どう言う悪霊ですか」
「…やっぱり貴方は悪霊です!」





そう、確かとにかく光秀を悪霊扱いしたがった少女だ。
思い出した言葉に一瞬顔を顰めたが、唐突に彼は気付いた。

自分は彼女を殺める前に気を失った筈…あの場は野外で、屋敷らしき物も見えなかった。



「もしや…助けた?」



そんな言葉が口から飛び出す。

殺されかけた相手を、何故助ける必要があるのだろうか。
寧ろ、倒れたが好都合。武器を奪って逆に殺めてしまえばいい…。



「ご本人に訊くのが一番…でしょうね?」



不可解な行動や言動をした目の前の少女に、彼は急に興味を持った。
その手始めとして、此処は何処で、何故自分を連れてきたのかと言う事を聞くため、
掛けられていた布団を退かし、少女に近づき肩に手を置いてゆっくり揺さぶりながら声を掛ける。



「もし…もし……」
「ん〜…」



ピクリとも動かなかった少女が声を出したが、少し身をよじるとすぐさま眠りに落ちる。
今度は少し激しく、肩を前後に揺らしながら、大きめな声で話しかける。



「もし…起きてください……」
「うぅ〜ん…?キャッチはお断りですぅ……



寝ぼけているのか、そんな寝言を言う物の、やはり起きない少女に。

パキンッ

光秀の中の何かが壊れた。



「フフフフフ…私を相手に眠り続けるとは…良い度胸ですねぇ…



その美しい顔とは不似合いな笑い声を出しながら、光秀は両手を少女の肩に置き――

思い切り、眠る少女(後に十七だと知るが)に頭突きを食らわした。




「い……ったぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ようやく起きましたか…おはようございます」




明智は少し傷む己の額に手を置きながら、ようやく目覚めた目の前の少女に言い放った。



「さて、理由をお聞きしましょうか?」



彼のその言葉と表情は、何故か妙に生き生きしていた。