"Suddenly" ――――其の時、何故衝撃音が聞こえなかったのか私は不思議に思っていた。 完全に、私は高い段に本を納めようとして、誤って台を踏み外して後ろに倒れた筈。 それと同時に眼も完全に閉じ、覚悟をしていた。 「…イッテ」 しかし、衝撃音は無い物の、実際の所体には衝撃が走った訳で、思わず口にして苦痛を表現する。 閉じた瞳を開けられない程、其れは腰に響いていた。 「――どう言う事なのか、説明できる者はいるか?」 腰の痛みを忘れ、思わず眼を見開く私。 さっきまでいた古本屋の店主とは明らかに違う声が、何故か目の前を覆う白霧の向こうから響いて来た。 眼前は白い物の、今いる場所は何故こんなに暗いのか、密かに疑問に思った。 …――先刻の事をとりあえず思い出してみる。 学校帰りの重い足取りで外観から言って客を呼ぶ雰囲気は微塵も無いバイト先の古本屋に到着し、 まだ制服のまま外国の児童書を両手一杯に持って本棚の上に仕舞おうとしていたのは覚えている。 ………………其れが今はどうだろう。 本は手元に無く、私の周りに無造作に放り出されていた。 そして当の本人である私も何故か漆黒のペンキ塗れで尻餅を付き、 不気味な絵や図形が赤いペンキで描かれている地面に囲まれている。 そんな考えを巡らせている内に靄が晴れ、図形を取り囲む黒い影を5つ程確認できた。 ――やばい予感バリバリします。 「ルシウス…君はあの強大な闇魔術で、こんな小娘を呼び出したかったのかね!?」 極限までしわがれた声を精一杯使って、私から見て右側の影が焦りを露わにして叫ぶ。 あれ……?待てよ。ルシウスって聞いた事ある気がするな……。 「我が友、マクネアよ。私が行った物に狂いは無い筈だか――当人に訊けば知れた事」 前方の影が突如話し、少しの間も置かずに少し先端が鋭くなっている棒を向ける。 姿は確認できないが、その必要は全く無い。 ――この16年間の人生の中で一番感じた事が無い、鋭く、狂気すら感じる空気がする。 「貴様は、一体何者だ」 「……顔も見せない相手に、自分の素性を明かす者が何処にいますか?」 其れが私の素直な気持ちだった。むしろ、この言葉が言える私が狂っているとも、一瞬思った。 目の前の人物は明らかに私を脅しているが、それに屈したくはなかった。 しかし、影は驚愕の空気を一瞬漂わせた物の、私に一層の殺気を示すので、安全対策をする。 「……っと言っても仕方が無いので、お答えします。 私は、単なるボロ本屋のアルバイト店員の十六歳の者ですが」 場が一瞬にして凍り付いた気がした。 そして枯葉が擦れる様な密やかな声が聞こえるが、私には全く聞き取れない。 その隙に立ち上がろうとするが――急に疲労感と、寒気が私を襲い、 地面に付けている両手の内の片手すら粘着剤でも仕込まれていた様に動かない。 私が悪戦苦闘している内に、囁きは何時の間にか途絶えていた。 その代わりに、5つの影全てから、棒が突き出されていた。 その先は――――勿論私にしっかりと向いている。 「――価値の無い存在は、死があるのみだ」 「ま、待って下さい!私、貴方達の事知りませんし、何故殺されると言う事になってるんですか!? まるで魔法がかかったみたいに私は、…気が付いたらこの場に居ただけです!!」 必死に、自分がどんな状況で此処に至ったかを説明する。 急に恐怖が体に走る……気が緩んでしまえば、嘔吐してしまいそうだ。 影の集団は、息が上がって来ている私をよそに、暫く沈黙を保っていた。 私はどうする事も出来ず、反応を待った。 しかし、影から響いて来たのは―――私を嘲笑う声だった。 私の体は寒さで震え、如何し様も無くたじろいだ。もう、俯いた顔からは透明の滴が地面へ落ちて行く。 絶望が、私の心を蝕んで行く――。 「……我らは、マグルの小娘の命など惜しくも何とも無い。滅ぶべき者は、排除される」 前方から、非情で、何処か愉快そうな声が響く――その瞬間、多くの事が私の頭に蘇る。 幼い日に、夢中になって読み続けた、一冊の本の事を。 「Avada Kedavra!」 ――迫る緑の閃光の先は、死が唐突に待っている事は知っていた。 疑問より、変な意味で安らかな気持ちになれた。 嘲笑われ、蔑まされ、完全に孤独となった瞬間に、私は死を迎える。 瞼の裏まで、緑の原色が近付いて来る――。 嫌な程、静かなのは何故だろうか? 恐ろしい程、沈黙が続く……死とは、こんなに物静かなのだろうか?衝撃すらない。 ゆっくりと、俯く顔を上げる――そこには、先刻と変わらずの闇と影の世界。 耳がおかしくなったらしく、音が何一つ入ってこない。 「なっ、何故だ!?どうして死の…………ッ!」 驚愕の声を上げる、前方の人物の声が途絶えた。それと同時に、私も頭上からこの場に不似合いな輝きが 発せられている事に気付き、すぐさま、顔を思い切り上に向けた。 瞳がおかしくなりそうな程の輝きを放つ物が六つ、私を取り囲む様にして宙に静止していた。 吐き気が治まり、体の震えも徐々に弱くなる。 ――――絶望を打ち砕く、柔らかな希望の輝き。 そう、心の中で認識した時……突然の強風が、この場を襲う。 思わず上げていた顔がガクンと再び床を向いた。風の勢いは、留まる所を知らない。 「…ッ!………一体、どうなっている!?」 疾風によって地面に押し付けられがちな私だが、必死に反発し、若干ながら顔を前に向ける事が出来た。 この疾風によって黒い影である人物のフードがはだけて、顔面蒼白の男の顔が見えた。 棒を持つ手で風による目への影響を極力抑えながら、懸命に風に逆らう。 綺麗なシルバーブロンドの髪を持つ男――。 「……ルシウス・マルフォイ」 吹き荒れる風による轟音の中、私が呟いた小さい言葉に反応し、彼と私の眼が合った。 ――何か言った様に聞こえたが、私の意識は徐々に力を増させる頭上の者達によって奪われた。 編集 5/10 主人公、早速ぶっとびー。 名前変更を使えず……次には何とか使うので、お待ちください〜 |