普通の時間よりも長く与えられる休み時間。

放課後でもそんなに生徒がいない図書館。

しかし、その日の昼休みは生徒が大量にいました。





 読書の時間にも悪夢





「ん〜、何にしようかなぁ〜。」



児童書の並ぶ棚の前で背を向けている本を眺める一人の女子生徒。

名前は三波



「ほんッとに。なんでこんな日に読書の時間とか・・・。」



読む本を探しながら、ブツブツと呪文のように唱えている。


実は今日の朝、突然、彼女の学年で行われることになった読書の時間。

というわけで、本を借りにきた生徒生徒生徒・・・



「というか、なんでこんな当日になってからいうのかな〜、あの男紛いの教師はさぁ〜。」



今だにブツブツと唱えている。

しかし、本探しはしているようで、棚の端から端まで目を通している。


普通ならば、彼女は迷わず取る本があった。

しかし、つい一ヶ月前に彼女にとって地獄のような、さながら悪夢のような事件により、

彼女にとって命の次の次の・・・次(?!)ぐらいに大事なものを失ってしまったのだ。



「あ゛〜あの変態赤目腹黒少年さえいなければ・・・。」



心のふかぁいところから恨めしそうに呟く

が、すぐに我を思い出したように、周りを見た。

少し離れた絵本コーナーには、友人達が大きな本を開いて、指差しあっている。

その中に、探していた人影が見え、は安心するように小さく息を吐く。

その時に見えたごちゃごちゃした細かい絵を確認して、はあぁ、と納得した。



「ウォー○ーやってんだ・・・。」



その瞳に呆れたような影が見える。



「まぁね、○ォーリーは世界的に有名だし、教育にいいといわれれば目にも悪いけど、

 いい経験にはなるとも思えないけど、とりあえず、一度目にして損はないかもね。」



その言葉は、友人達の中にその持ち前の爽やかな笑みを悪用して潜む、異世界人に向けられたもの。

もちろん、呟くようにして言っているので、本人には聞こえていない・・・と願うだった。



「いや、あれは小さい子供にいいどころか、血とか普通に殺し合いしてるから、ものすごく教育に悪いけどね・・・。」



たまに血がブシャァって出てるとこあるしね。


そんなことを呟きながら、自分の本探しに戻・・・ろうとして、硬直した。


目線を一点に定めたまま、は咄嗟に息を詰まらせた。


・・・。

しばらくの沈黙後、引きつった笑いを浮かべた。

いや、それしか出なかった。



「危ない危ない。」



そう言って今だに目を向けている本は有名な『リトル・○リー』

本人は読んだことは無いが、題名なら何度か見たことがある。



「はは・・・これがまさかきやつの名前に見えるとは。」



ここで『きやつ』のところだけ、憎悪が含まれていたことは無視しよう。


今現在、の頭の中を垣間見るとこうだ。

本の題名が、誰ともいえない、彼女しか知らない名前に見えたのだ。

本の題名のうち前半の真ん中の文字に濁点をつければ・・・



「う〜意識すればするほど、―――に・・・。」



あえて、名前は言わない。

何しろ、『きやつ』は食えない人物だ。

いや、食えないどころか、食おうとすれば、こっちが食われる。

というか、間違って食えば、絶対腹を壊す、どころか、不味すぎて死ぬに違いない!!

そんな人物だ。

もう彼女には、人を食べたら駄目だよ、という突っ込みと常識は通用しない。

つい最近、そいつの正体を告げられ、毎日命の危険に晒される日々を送っている。

冗談ではなく、本当に奴に食われる可能性はあるのだ。



「いや、あるんじゃなくて、今の状況は確実にやばい・・・。」



告白と同時に言われた唯一の楽しみの内容。

殺られる心配はないが、あとはどんな心配があるかわかったもんじゃない。


そこまで考えて、突如、現実逃避したくなり、目を明後日の方向に向ける。

と目に入る、なじみすぎたその表紙の色。



「・・・うそっ?!」



赤い、いや赤黒いと言ったほうがいい表紙に白に近いクリーム色で書かれた本の題名。

それはだけが知っているはずの本とよく似たものがそこにはあった。

そう、今は全世界から消えた、大ベストセラー小説の第二巻『ハリー・ポッターと秘密の部屋』

はわずかな期待と、密かに敵とみなすソイツの弱みを握れるかもしれない、という思いで、それに近づく。



「・・・・・・・・・・・・・はぁ。」



しかし、落ち着いてその題名を読むと、の期待と希望は、ガタガタンッ!という派手な音を立てて崩れ去った。



「・・・『バリー・ホッターと秘密の招待』・・・。」



ここは図書館。

もし、ここが図書館でなければ、彼女は一声叫んでいたであろう。



「(・・・あぁーーー!!もうっ!間際らしい名前とこの本の色ッ!!)」



・・・図書館でなくても叫んだ。

もちろん、心の中で。


『バリー・ホッターと秘密の招待』

は確かにそれを読んだことがあった。

そのとき、ハリポタがまだこの世界にあって、皆がハリポタに夢中になっているとき。

その波に乗って、数々の盗作ともいえぬ、類似本が出版されたのだ。

これはその一つ。

は一度、面白半分に読んだことがあった。


確か、少年バリーが道端で自称魔法使いの主催するクリスマス・パーティーの招待券を拾って、それに行く。

なんていう話だったなぁ、と思い出しながら、それに手を伸ばす。


が。



「おやおや・・・。」



スッと入ってきた白い手がその本を掻っ攫っていく。

その手の持ち主を見ては、反射的に顔が引きつる。


いつの間にこっちに来たのか、という問いよりも先に突っ込むべきことは。



「・・・『おやおや』って・・・何者。」



その言葉は明らかに似合わん・・・という気持ちを物語っている。

それをきっとトミー・リーゼルこと、トム・リドルも察知したのだろう。

にしか見せない、素晴らしい笑みを贈ってくれた。


にしか見せない笑み・・・。

ラブ・ストーリーならば、これの意味するところは、恋人が恋人に向ける特別な笑み、と聞こえがよくなる。

しかし、と彼の場合、この笑みはやつの本来の笑みである。

つまり、この世のものとは思えない腹黒い笑みを表すのだ。

そんな笑みの恐ろしさを感じたは、即座に行動を起こした。



「・・・。」

「あれ?どうして、そんなに逃げ腰なのかな?」

「い、いや・・・別に逃げてる、わけ、じゃ、ないですよ・・・・・?」

「君の場合、言っている事と行ってることは違うからね。」



冷や汗を額ににじませながら、そう喘ぎ喘ぎ主張するをサラリと流すトミー・・・いやトム・リドル。



「えーと・・・リ、リーゼルさん・・・・?先ほどまで○ォー○ーやってませんでしたか・・・・?」

「あぁ。やってたよ。でもね・・・。」



そう言ってから、リドルは、やってられないという表情を浮かべる。



「ナギサ達に誘われてやったのはいいんだけど、細々しててね、目が痛くなるんだよ。

 ほら、僕、一応カラーコンタクトしてるし?」



それは言い訳の一つだろっっ!!

そんな突込みをしたいだが、口に出したら、怖いので、心の中でとめておく。



「あぁ、それから、残酷なシーンを書くなら、もっと黒々しく書かないと雰囲気が出ないね。」



それは、貴方だけのものさしによるものです。

はそう心の奥底でさらに毒づいた。


待てよ。

ここで、奇跡的にも柔軟且つ冷静な思考をした。

この発言からすると、彼はあの細々とした、

主人公とその仲間達を探すという、あの世界的に有名な絵本が苦手と見える。

もし、彼に例の笑顔を浮かべられたとき。

彼の目の前にあの細々としたページを見せれば・・・!!!



さん?残念だけど、あの細かい絵本は、今の僕の消去候補の上位に位置してるからね?」

「ゲェ・・・ッ。」



予想してたとはいえ、ここは柔軟に反応できなかった

顔が引きつる。


そんな彼女を放って、リドルは話を続ける。



「まぁ、そういうわけで、二人についていけなくてね。

 そんなとき、さんが本棚の前で滑稽なことをやっているのが見えたから、来ただけだよ。

 どんな面白いものがあったのかな、と思ってね。もちろん、ナギサたちにはそんなことを言ってないから安心して。

 まぁ、僕も丁度本を探しに来たし・・・。」



背景がキラキラするような笑みで言ってくれた彼の言葉はの心にぶっ刺さる。



「(まさか・・・見られてた・・・?!!)」



それに、渚達に知られるよりも、リーゼルに見られるほうが、何倍もダメージは大きい。

それを知っているのか、知っていないのか、目の前の少年は完全に無視して、

手にもっているそのハリポタの紛い物を値踏みするように見る。



「・・・・ふーん。まさか、こんな本があるなんてね・・・。」



そして、ぱらぱらとページをめくり始める。



「そうだね・・・興味があるから、読んでみようか。」



その言葉を聞いたは唐突にその本が可哀想になった。

その本を持っているのは、トム・リドル。別名 闇の帝王。異名 腹黒キング(←こっち大事)

彼はきっと、あの腹黒い笑みを浮かべてその本を読むだろう。

読書の時間は50分。

50分もあの笑みを浮かべられて読まれるのだ。

・・・・・死ぬ。


もちろん、本に情があるわけではない。

だが、ここでこれを借りなければ、はまた本を探さなければならない。

は恐る恐る腹ぐ優等生トミーに声をかけた。



「あ、あのー・・・それ、私が借りようと・・・・。」

さん。いい本を見つけてくれたね。ありがとう。」

『カチッ。』



その場の温度が50度下がり、は効果音を伴って凍った。

明らかにその言葉には裏があった。

翻訳しなくともわかる。

「僕が読むからね。君が借りるなんて、もっての外だよ。」だ。



「この本は、なかなか面白そうだし。

 何しろ、トミー・リドゥーとかいう魔法使いも出てくるみたいだからね。楽しませてもらうよ。」



そう、相も変わらずな笑みを浮かべていうリーゼル。

更に続ける。



「あ、そうだ。せっかく面白い本を教えてもらったんだし、この本をお勧めするよ。是非読んでね。」


後半だけ翻訳すると、「絶対読め。」だ。

そして、その言葉を行動に移すかのごとく、棚から引き抜いた一冊の本をに押し付ける心優しきリーゼル君。



「二つも名前があると、色々便利なものだね。」



そう、意味のわからない言葉を残して、嵐は去った。

残されたのは、カチコチに固まった



〜どうしたの?」



と、現れたのは、今しがた、の脳内で融解機と名づけられた友人 渚。



「・・・はぁ。渚〜。ありがとう・・・。」

「ん?どういたしまして?あ!!それ、読むの?うん、何か、一時期有名になったよね〜。」



の感謝の言葉に適当に返事をした渚は、の手にもっているものを見て、うんうんとうなづく。



「え・・・?」



驚いて見れば、手にあるのは、見たこともない本だった。



「『俺様は自己中心的である。』・・・?何これ?ってか、

 題名が某有名作家による有名文学のに似ていると思うのは私だけでしょーか?」

「う〜ん・・・多分、だけじゃないと思うよ〜?」



横の渚が、本棚を眺めながらそう答えた。

は中身が気になって、ペラリと表紙を捲った。

目次を目で追っていく。

 はじめに
 第一章 光と闇
 第二章 愛情と憎悪
 第三章 清潔と穢れ
  ・
  ・
  ・

ふざけている。

そう思ってから、とりあえず、『はじめに』を開いてみた。

きっと始まりは『俺様は自己中心的である。』なんだろうなぁ、と思いつつ、冒頭を読む。


『マグル・・・いや、人間は自己中心的である。』



「・・・。」



自分じゃないんかいっっ!!

それ以上、読む気が起きずには本を閉じた。


しかし、はっ!と気がついたように、すぐにもう一度ページを開く。

そして、その一文を慎重に読む。


『マグル・・・いや、人間は自己中心的である。』



「・・・まさか・・・ッッ!!」



すぐさま本を閉じ、表紙を今一度見た瞬間、固まる。


『俺様は自己中心的である。』―――トム・M・リドル



「・・・。」



沈黙。

ここでの心の中をのぞいてみよう!



「(あの異世界出身腹黒偽優等生!!!こんなパクリ紛いのものを書いてやがったのかぁぁぁっっ!)」



つまりは、奴の本が出て、しかも、聞いた話によると、売れていた、というのが気に食わないらしい。

読むのも億劫になって、それを棚に戻そうと手を伸ばす。

が。

脳裏によぎるのは、彼の最後の言葉。


「・・・是非読んでね。」



「?どうしたの??」



渚が心配したように声をかける。

もちろん、冷や汗を滝のように流すを心配しているのだ。



「・・・・・・奴の場合、絶対読まなかったら殺される。もうあの笑顔で殺される・・・っっ!!」

?」



首を傾げる渚を置いて、はブツブツと低い声で呟きながら、自分の思考にのめりこんだ。


彼の本であるからして、絶対に自分は突っ込みをいれずにはいられないだろう。

だが、後ろに座るであろう相手はトム・リドル。

人の心を読み、黒い笑みを自在に操るに取って超×無限大がつく以上の強者。

その分、読まなかったら、何をされるかわかったものではない。

だが、それを読みたいとは思わない。

特に、彼がすぐ後ろに座っている時間、読書の時間には。


そのとき、はひらめいたっっ!!



「(そうだ、別に読書の時間に読まなくてもいいんじゃんっ!)」



そう考えたは、別の本を借りようと本棚と向かい合った。

が。



『キーンコーンカンコーン・・・』

「うそっ?!」



、本日二度目の絶句。



「ほら。〜、予鈴なっちゃったじゃん。教室帰るよー。さぁ、さっさと借りちゃおうっ!」



そう言って、から、『吾が輩は猫である』ならぬ『俺様は自己中心的である。』を奪い、

カウンターへと行く渚。

ああなると止められないことを知っているも渋々向うと、

そこには、先ほどの『バリー・ホッター』を借りるトミー・リーゼルがいた。

目が合った瞬間に、ニッコリと微笑まれる。

その一瞬で、は表情を硬くする。

そして。



さん。また、面白い本があったら、教えてあげるよ。」



・・・・こいつ、他に本を書いてるのかっっ??!!!

は誰にも気付かれず、そう叫んだのだった。

こうして、三波 の苦悩の日々は続く。




洸月さんに捧げます。
すいません、ギャグとリクエストをいただいていたのに、
ギャグ風味になってしまいましたぁぁ・・・!!(泣)
申し訳ない、こんな駄目文で。
何はともあれ、一周年記念、おめでとうございますっっ!!

Caffeine


Caffeine様へ。

す、素敵過ぎて今日が命日になりそうでした!(帰って来い)
私が書くよりうまいですっ!(ぇ
ここっこ、これからもこのサイトをよろしくお願いしますっ!!
ほ、本当に。あ、ああああああ、ありがとうございましたっ!

洸月