風が吹き、人々が行き交うその場所で、初歩的な会話が聞こえてくる。 「いいですか?目の前にあるあの箱が青くなったら、進んでいいんですからね?」 「おや、あちらの箱が青くなりましたよ?」 「あっちは、あっちなんです。進みたい方向の箱の色しか信じちゃだめですからね!」 が少し口調をきつくして目の前にいる彼――明智に言うと、現に目の前の"信号"が青になり、 それに気づいたは彼の手を引いて早足で道路を横切った。 「…人酔いしてません?大丈夫ですか?」 「ええ、大丈夫ですよ」 隣に立つ彼に体調を聞けばそんな答えを返されたが、から見れば明智の顔色はあまりよくない。 いや、肌の基本が青白いのにどうやって見分けることができたのか…は置いておくことにして。 はとりあえずはぐれない様に彼の服の袖を掴んだまま数秒間思案する。 ……そろそろ休憩を取るべき頃合だろう。それに。 「私の精神力もきついし…」 ボソリと、街中ではあまりにも無力な声の大きさでそんな独り言を口にする。 単刀直入に言うなら、は明智と散歩に繰り出したのを若干後悔していたのだ。 …彼の銀髪で長身で美形の容姿が街中で目立たないわけが無い。 容赦なく人々からの視線を浴びることに、一般人であるは全く慣れていなかった。 その上、この世を全く知らない明智を気遣い、 言葉を選んで必要最低限の物を紹介するのさえ骨が折れる。 ――…つまり早い話が、今は疲れきっていた。 思考の世界から戻り、彼に今からのことを説明しようとは後ろを向く。 しかし、明智はその場の近くにあった花壇に植えられている草花に優しく触れ、観察しているようだ。 その表情を見る限りでは、本当に彼は戦場と言う物騒な場所にいたのかと、疑いたくなる程だった。 「…明智さん?」 「え、あぁ、これは失礼。どうしましたか、?」 呼び声でようやくがこちらを見ていた事に気づいた明智はゆったりとした動作で向き直る。 「私も疲れたので、一度休憩できる場所に移動します」 「そうですか。すみませんね、負担をかけてしまいまして」 何故か突然謝りだす明智。 …なんなのだろうか。と、は思わずにはいられなかった。 今まで接してきて確かに掴み所の無い性格をしているとは思ったが、ここまで激変すると寧ろ怖い。 無言でいるに対し、明智は暫くするとが向いている方向に歩き出す――が。 明智は、唐突に、何も無い場所で……こけた。 「明智さん!?」 地面で微かに体を震わせて痛みに耐えている彼に、急いで駆け寄る。 あまりにも周りからの視線が厳しいため、急いで手を貸して起き上がってもらう。 そして此方に無理やり向かせて顔を見て――…思わず。 「ふっ…」 微かだか、噴出してしまった。 銀の長髪で、誰が見ても美人だと言い切れる彼が、鼻を赤くしているのだ。 失礼なのは分かっていても、自然と笑みが零れてしまって、は背を向けて落ち着こうとする。 「す、すみません明智さん…、でもっ!」 言い訳をその状態で言うが、全くと言っていいほど説得力がない。 落ち着こう、落ち着こう…と思っていても埒が明かない。ここは顔を見てしっかり謝らなければ――。 はゆっくりと振り返った。 ……行き交う人ごみに、既にあの銀髪は見当たらず。 「明智さぁーん!?」 悲鳴に等しいの叫びが、休日の街中に響いた…。 天然通り越してドジなのか…そんな明智さんが迷子になりました。 そして展開が急すぎ。
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